あなたが生まれたのは12月31日。そして私が1月1日。

 

  折角の一日違いなんだから、この際一緒に祝っちゃいましょうよ。

 

 

 

 

  12年後の、この場所で――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月0日―SideB―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は12月30日。世間では年末ということもあり、何処に行っても混雑している。

 普段はそんなにでもない駅でも、年末年始とあってか、相当な賑わいを見せていた。

 ……全く、皆お祭り騒ぎが好きな暇人ばかりなんだな、と皮肉を心の中で言ったりしてみる。

 まぁそんな事を言ってる私も私で暇人なのだが……

「はぁ、やっと着いた。 うわぁ……懐かしいなぁ――……ってあれ?」

 電車に揺られる事30分。私は高校生の時に通っていた駅で降り、懐かしさに身を包む筈……だったのだが

「やっぱり12年も経ったら変わっちゃうかぁ。うーん……残念」

 私が高校生の頃に過ごしたその町並みは、前もって懐かしむ準備をしておいたのに、それが無駄になってしまうほど変わっていた。

 まぁ良いか、月日は百代の過客に云々って言うし。変わらない方がおかしいだろう。

 その変化に多少の不安を抱きながら、私は約束の場所へと向っていた。

 12年前――高校生の時、あの人と約束した。

 あの場所へ……

 

 あの頃の私は大人しくて、勇気もなくて……勉強も出来るわけでもなく、普通の女子高生だったと思う。

 そんな私にもやっぱり気になる人がいて、私にとってはそれが1年生のときに同じクラスになったあの人だった。

 だからと言ってあの人の事を良く知っていたわけでもないし、クラス内で女子の人気者なわけでもなかった。

 だけど私は気になっていた。あの人のことをもっと知りたいとも思った。

 そんな気持ちからか、私は気付くとあの人のことばかり見ていた。

 友達と馬鹿やって楽しそうにしているあの人。

 遊びの度を過ぎてしまい、先生に叱られているあの人。

 思い返したらきりがない。

 だけど、そんな彼と話すことは無かった。

 最初は目が合ったときは素直に嬉しかった。

 あ、私のこと見てくれてるんだ! と思った。

 でも何度も何度も目が合って、彼が直ぐに目を逸らすのを見て、もしかしたら気持ち悪がられてるんじゃないか、とも思った。

 もしそうだとしたら話しかけることなんて出来やしない。そんな勇気私にはなかったのだから……

 

 そうやって過去を思い出していると、いつの間にか目的地に着いていた。

「良かったぁ……此処は変わってなくって」

 先ほどから抱いていた不安が消え去り、安堵感がこみ上げて来る。

「さて、確認も出来たことだし。明日に備えて今日はもう帰りますか」

 そう、本当に大事なのは今日じゃなく明日なのである。

 今日は約束の場所が残っているか、確認をしに来ただけなのだ。

 うん、一番暇人なのはやっぱり私なのかもしれない。

 でも明日と言う日は、それだけ価値があるのだ。

 明日――12月31日。

 その日に私の運命が変わる。結果がどうあっても、今まで過ごしてきた12年間とは全く変わった人生になるだろう。

「ちょっと早いけど――さよなら、今までの私――」

 私はそう呟いてから来た道を引き返し、家路に着いた。

 

 

 

 12月31日――

 ついにこの日がやって来た。

 12年前、あの人と交わした約束の日である。

 この日をどれだけ待って、どれだけ恐れたことか……

 ふと時計を見ると約束の時間の1時間30分くらい前であった。

「ん……そろそろ出ようかな。」

 昨日のシミュレートを参考に、家を出る時間を計っていたのだが、家に居ても落ち着かないので早めに 家を出ることにした。

 昨日も歩いた道のりをなぞって歩く。今日は昨日に比べて寒かった。

 駅に着くと丁度電車がホームへ入ってくるところだった。

 別に急いでいるわけでもないが、乗り遅れないように自然と早足になる。

 電車の中はそんなに混んでは居なかった。私は空いている席を見つけるとそこに座った。

 

 

 ――誰かの声が聞こえる――

「――趣味は、音楽聴くこと、誕生日は12月31日。んで、もう俺のこと知ってる人もいるだろうけど、初めての人もよろしくお願いします」

 それは高校3年生のとき、またクラスが一緒になったあの人の自己紹介のセリフだった。

え? あの人の誕生日……12月31日――?

 

 

 ――私と1日違いなんだ。

 そう、私の誕生日は1日違いの1月1日だった。

 周りの皆からは、元旦が誕生日とか凄いじゃん! とか 羨ましい! とか言われるけど、私は特にそんな得をした気もしなかった。

 でも今回は違った。あの人と誕生日が1日違いと聞いただけで、今まで言われたどんな言葉よりも得をした気になれた。

 自然と笑みが零れて来る。気付くとあの人を見ていた。

 その時、あの人と目が合った。

 え? どうしよう、私にやけてたかも…… あの人、すぐに目背けちゃったし…… やっぱり気持ち悪いよね……

 視線を元の位置に戻し、溜息をつく。

 でも、これでまたあの人のことを知れた。それに、誕生日が1日違いだなんて何か運命的じゃない?

 他の人が否定しても、私はその運命を信じたかった。 ――いや、信じていた。

 

 

 

 ――ゴトン、ゴトン――

 カーブの揺れで私は目を覚ました。

 気づけば私の荷物が、隣の人の足に掛かっていた。

 すみません、と一礼し、荷物を抱える。

 私が電車の中で寝るなんて、滅多にないことだ。

 昨日は早めに布団に潜ったのだが、興奮してあまり眠れなかったのである。

 まぁ、そのおかげであの頃の夢を見れたと思えば良いとしよう。

 約束を果たせたときの思い出話にも丁度良い。

 それに――約束の日にそんな夢を見られるなんて、縁起が良いと思った。

 そんなことを思っていると、駅に着いた。

 昨日も通った道筋をなぞる……が、その道は別なものに思えた。

 ――落ち着かない。道が長く感じる。

 ――こんな時は……そうだ、昔のことを思い出そう。

 あの人にあった時、そんなこともあったね。って笑いあえるように――

 

 ――夕暮れの教室。そこには私と友達に囲まれたあの人が居た。

 友達さえ居なければ話しかけられるのに……なんて、何度思ったっけ。

 仮に二人きりになったとき、話しかける勇気もないくせに、いつも友達を疎ましく思ってた。

 自己紹介の日から、あの人とは多少は会話をするようになっていた。

 けどそれはとても簡易的なもので、周りに誰かが居る事が多くて、とても満足できるような会話ではなかった。

 その日の夜のことだった。親に、仕事の関係で海外で暮らさないとならなくなった。と告げられた。

 私は勿論反対したかった。だが、仕事の関係では仕方がない。それに私が学校を卒業するまではこっちで暮らせるらしい。

 どうせあの人とは、卒業したら別れることになるんだから。と自分に言い聞かせ、それで納得した。

 いや、無理矢理気持ちを抑えた、と言ったほうが正しいか。

 翌日、学校に行くと友達が寄って来た。 どうしたの? と聞くと、私が元気ないように見える。とのこと。

 自分で気が滅入ってるのはわかっていたが、傍目から見てもわかるほどだとは思わなかった。

 取り合えずそこは適当に体調が悪いから、と流しておく。

 別に本当のことを言っても問題はないけど、騒がれてしまったら厄介だな、と思ったからだ。

 でも、あの人にはそのことを伝えたかった。一番伝えたくないけど、伝えたかった。

 そして、そのまま卒業式を迎え、何事もなく私は海外へ旅立つ――筈だったのだが……

 

 卒業式当日、それは起きた。

 

 

 「――え?」

 急に話しかけられ、自体を飲み込めない私にあの人がもう一度口を開く。

 「だから、卒業式終わったらちょっと残ってくれない?」

 「う、うん……わかった。」

 そう言うとあの人は慌てて男子の列に並びに行った。

 少しの間何を言われたのかわからなかった。

 友達に話しかけられ、ふと我に返り、廊下に出来ている列に並びに行く。

 式中は終始かけられた言葉について考えさせられる事になった。

 なので、あの長くてつい寝入ってしまいそうになる子守唄のような校長先生の話も短く感じられた。

 

 

 やがて式が終わり、私達は教室に戻ることになった。

 教室に入り、最後のHRを迎えた頃にはクラスの半数が泣いていた。

 私はというと、まだあの言葉の意味について考えていたので涙は流れなかった。

 意味が理解できなかったわけではない。考えたくなかったのだ。

 普通、卒業式の終わりに男子生徒が女子生徒を呼び出す理由と言えば一つしか無いだろう。

 しかし、私はそれを拒絶していた。

 何故なら、仮に結ばれたとしても、明日には海外へ引っ越してしまうのだ。

 だから私は意味を理解しようとはしなかった。いや、理解できていない振りをしていた。

 そうしている内にHRも終わり、教室に残っている生徒も少なくなってきた。

 私は友人達に別れを告げ、指定された場所へ向かうことにした。

 あの人はまだ教室に残って名残惜しそうに友人達と騒いでいたが、私が教室を出たのを確認すると少し時間を置いてからついてきた。

 お互いに黙ったまま歩き、指定された場所へ辿り着く。今までに無かった緊張が走る。

 教室を出た後から此処まで一言も話さなかった。寧ろ話せなかった。と言ったほうが正しいか。

 「――あの、さ」

 不意にあの人が口を開く。同時に私の中の緊張感が最高値まで一気に上昇する。

 「俺、卒業する前にどうしても言っておきたかった事があるんだ。」

 頭の中ではわかっている。これから告白されるのだ。でも同時にそれを否定する。

 何故否定する必要があるのか。自分に問いかける。

 だって、もしあの人にあの言葉を言われてしまったら――

 「俺、一年の頃から――」

 諦めかけていた思いが、また――

 「ずっと、今まで――」

 折角向こうへ行く決心がついたのに――

 「好きだったんだ。」

 視界がぐにゃりと歪む。自分の心臓が五月蝿いくらいに鳴っている。それなのに全身から血の気が引いていくような錯覚さえ覚えた。

 予想はしていた。もとい、声をかけられたときからわかっていたのだ。

 だけど心の底でそれを否定していた。否定せざるを得なかった。

 沸いてくるのは なんで今更―― と言う感情だけ。

 普段ならこんなに嬉しい言葉は他に二つと無い筈なのだが……

 少しして、やっと頭が落ち着いてきた。五月蝿いくらいだった心音は普段どおりになり、視界も定まってきた。

 ――どのくらいこうしていたのだろうか。 あの人は不安の表情を浮かべたまま、私の答えを待っている。

 私の答えは既に決まっている。 選択の余地などないのだ。

 「――ごめんなさい。私、明日から海外へ留学することになったの。 だから、気持ちは嬉しいけど……」

 それを聞くとあの人は、断られたショックと、初めて聞く留学と言う言葉の驚きを隠せない。といった表情になった。

 「――そう、か…… 留学じゃ仕方ないよな…… 向こうでも頑張れよ。」

 そう言い終えると、あの人は背を向けて去っていこうとした。

 「待って!」

 反射的にあの人を呼び止めてしまった。改めて自分が未練がましいことを再確認し、自己嫌悪を抱く。

 「ちょっとお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」

 あの人は立ち止まり、私に背を向けたまま お願い? と聞き返してきた。

 まず、あの人が立ち止まってくれたことに安堵感を得た。 私は更に言葉を続ける。

 「うん。私、留学する前にもっと此処の景色とかを覚えておきたいの。だから一緒に街中を歩いてくれない?」

 その言葉をあの人がどう受け取ったのかはわからない。もしかしたら私が情けをかけているようにも聞こえたかもしれない。

 でもあの人は頷いてくれた。それが私にはたまらなく嬉しかった。

 

 

 やがて私は約束の場所へと着いた。

 時間は約束の30分前。気持ちを整理するには十分な時間だと思った。

 約束の場所――大きな木の下。

 

 あの人はもう着ているのだろうか? それとも、来ていないのだろうか。

 来ていないとしたら……それは、約束を忘れてしまったから? それとも、もう結婚してしまったから?

 

 今までも感じていた不安が此処に来て一気に増大する。

 その不安を誤魔化すために、辺りを見回してみた。

 すると、この場所だけは昔と変わっていないことに気づいた。

 あの時、あの人と約束をした――その時から――

 

 

 ――私の高校生活が詰まった街。

 最初はそれを一人で歩いて回る予定だった。

 けど、それは変わった。私の隣にはあの人が居る。告白の後とあって、気まずくて話は出来なかったけど、それでも幸せだった。

 やがて、街の色々な場所を歩くうちに少しずつ話をするようになり、最後には二人笑顔で会話していた。

 そして最後の場所――大きな木の元にたどり着いた。

 そこで彼は ちょっと待ってて と言い残し、最寄の自販機へと駆けていった。

 「はい、これ。」

 手渡されたのは缶コーヒーだった。

 「ありがとう。あ、お金……」

 缶コーヒー代を払うため、ポケットの中の財布を取ろうとした時、彼がそれを制した。

 「良いって。驕りだ、驕り。明日から海外に行っちゃうんだろ? 最後くらいカッコつけさせてよ」

 と言いながら笑う彼は、最後に ま、たかが缶コーヒーでカッコ良いも悪いもないか。 と苦笑した。

 それを見て私も思わず微笑む。

 3月とは言えどもまだ少々肌寒かったので、暖かい飲み物は嬉しかった。

 でも私はコーヒーが飲めなかった。何というか……あの苦味しか無い物の何処が美味しいのかが理解できなかった。

 しかし折角貰ったものを無碍には出来ない。相手が憧れのあの人となれば尚更だ。

 意を決して飲む。…………やはり苦い。

 缶のラベルには微糖だなんて書かれているが、何処に糖分が入っているのか。

 そんな風に心の中で文句を言っていると、彼が言った。

 「……なぁ、留学終わったらさ、日本に帰ってくるのか?」

 それはまだ考えても無かったことだった。留学すると聞いてからずっと、彼に会えなくなるということばかり考えていたからだ。

 「ん……わからない。お父さんの仕事の関係だから……」

 そう言うと彼は残念そうに そうか と言った。

 ……沈黙が流れる。少し前までの楽しい気分が嘘のようだった。

 その沈黙を破るように、今までの引っ込み思案な私を変えるように……

 私は口を開いた。

 「あ、あのさ――

 

 

  あなたが生まれたのは12月31日。そして私が1月1日。

  折角の一日違いなんだから、この際一緒に祝っちゃいましょうよ。

 

 

 

  12年後の、この場所で――」

 

 

 

 

 

 

 

 我ながら凄いことを言ったものだ、と思う。

 その一瞬前まで日本に帰ってくるかすらわからずに居たのに、12年後また会おうだなんて……

 まぁその約束のおかげで、私は海外でも頑張っていけたのだが。

 しかしながら何故12年後なんて数字が出てきたのだろうか。

 18歳から12年後……要するに30歳。

 その歳ともなれば、結婚している可能性が大きいから?

 そう、あの人が結婚していると言うのならば諦めが付くと思った。

 でも……結婚していなければ…………?

 

 

 

 そこまで考えて頭を振る。気づけば時計は約束の10分前を刺していた。

 あの人の姿はまだ、無い。

 12年前も前の約束だ。忘れていたって仕方ないだろう。

 それにまだ約束の10分前なのだ。今頃急いで向かってきてるかもしれない。

 視線を電光掲示板に移す。

 電光掲示板には 新年まであと 00日00:09:32! の文字。

 その数字の秒読みを何気なく見ていると、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。

 

 ――まさか。

 心臓の鼓動が跳ね上がる。今までの不安が一気に消え、その代わりに焦りとも恐怖とも似た、焦燥感がこみ上げてくる。

 「Excuse me」

 ――あの人では無かった。

 その瞬間、つい先ほどまであった鼓動と感情が嘘のように沈んだ。だからと言ってその人を無視することは出来ない。

 聞けばその人は、本屋を探しているのだが、この人混みでは店がよく見えなかったので声をかけさせて貰った。との事だった。

 私は場所を出来るだけわかりやすく説明し、此処に残ってあの人を待とうとしたのだが……

 なるほど、この人混みではどんなに説明してもわからないかもしれない。

 約束の時間――私達の誕生日まであと10分。

 本屋は此処から近い。時間に遅れることは無いだろう。

 そう思った私は、その男性を本屋まで送り届けることにした。

 

 本屋から戻ってきたときには約束の1分前。予想外に時間が掛かりすぎてしまった。

 戻ってきてもあの人らしい人は見当たらない。

 それでも悪足掻きと言わんばかりに辺りに目を配り、あの人の姿を探していた。 

 周りはカップルだらけ。

 一瞬、私達も会えていたら……あんな風に一緒に過ごせたのかな、と考えてしまった。

 すぐにその考えを消す。 まだ会えないと決まったわけではないのだから。

 やがて、電光掲示板にカウントダウンの数字が浮かび始める。

 

 「5!」

 

 私達の約束の時間まであと5秒。

 

 「4!」

 

 私達の繋がりが消えてしまうまであと4秒。

 

 「3!」

 

 このまま此処に着いてもあの人は来ないかもしれない。

 

 「2!」

 

 だけど此処まで来たなら一人でも約束は果たそう……

 

 「1!」

 

  ハッピー

 

 「0!」

 

  バースデー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   12年後の、30歳の誕生日。

  お互いまだ独身だったら、この場所で会いましょう。

  そして、こう言うの。

  31日のあなたに向けて、ハッピー

  そして1日の私に向けてバースデー

  これって、なんとなく、素敵な気がしない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束の内容が蘇る。

 ――まだ独身だったら。

 そう、あの人は結婚しているかも知れないのだ。

 だとしたら此処には来ないだろう。

 

 

 ふと、何かを感じた気がした。

 後ろの木に視線をやる。

 この木は大きい。なので後ろ側は見えないのだ。

 昔はそんなに人通りが多くなかったので、後ろ側の人の足音等も聞こえていた。

 しかし今は人混みが凄く、足音なんて聞こえない。

 そこまで来てから私は致命的な事に気がついた。

 ――もしかしたら……この後ろで待っていたのでは?

 また先ほどの焦りと恐怖が入り混じったような焦燥感が募ってくる。

 

 

 恐る恐る……けれども期待を膨らませながら木を回って裏側を見てみる。

 やはりと言うべきか……あの人は居なかった。

 「やっぱり居るわけない、か……」

 溜息をつきながら、木をぐるりと一周するように、最初に居た位置の正反対の場所に来た時、足元に何かが置いてあるのに気づいた。

 缶コーヒーが2本、置いてあった。

 最初は2つとも空き缶だと思ったのだが、よく見てみると1つはまだ蓋も開けてない状態だった。

 普段ならしないはずなのに、なんとなしにそれを拾い上げてみる。

 それは偶然にも12年前、此処であの人から貰った缶コーヒーだった。

 とは言えラベルは変わってるし、この缶コーヒーは人気なので何処に置いてあってもおかしくはない。

 だが、中身が入ってると言うのは珍しい。

 普通なら誰かが2本買ってしまい、飲みきれなくなり捨てていった。と考えるのが妥当だろう。

 しかし私は、その缶コーヒーを12年前の記憶に重ねあわせて、大切にポケットにしまい、帰路についた。

 

 

 ――もしもあの時、本屋まで行かずに口で説明していたら?

 ――もしも私が木の後ろ側まで回って確認していたら?

 わかってる。こんなことを考えても後悔しか生まれてこない事を。

 でも何故だろう。頭ではわかってるつもりなのに、考えるのを止められない。 

 ふと、ポケットの中にある缶コーヒーを取り出し、そこに居たであろうあの人を思い浮かべてみる。

 ――私を待っているあの人。

 私がコーヒーは苦手なのを知らずに、自分と一緒のコーヒーを買ってきてくれるあの人。

 本来なら2人で飲むはずだったコーヒーを1人で飲みながら、電光掲示板のカウントダウンにあわせて……

 ――ハッピー、バースデー。

 思えば思うほど後悔の念が押寄せる。でも、もう過ぎたことなのだ。

 あの人は約束どおり来てくれたのだろう。確かな証拠も無いのにそう思い、缶コーヒーを鞄にしまった。

 

 ――帰り際の駅、電車を待つ間寒かったので暖かい飲み物を買った。

 こういう時、いつもならホットココアを選ぶのだが、今日は鞄の中にある缶コーヒーと同じものにした。

 

 

 ――年が明けて始めて飲んだコーヒーは、懐かしい味と、やはり糖分なんて無いと思える苦さ、そして少ししょっぱい味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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投稿者コメント

初めまして、神和です。
今回、管理人の星姫さんから女性側視点で描いてみてほしい。と言われ、描いてみることになりました。
お目汚しになること間違いなしですが、僕の処女作。どうか楽しんでいただければ、と思います。

 

 

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管理人コメント

はいどうも、そろそろ星姫って名前もどうかとかんがえている星姫です。

神和さんが、小説描いてみたいとの話を聞いたので、「じゃあこれの女性視点を描いてみたらどうですか」ってなことで描いたのが男が主人公の方。これは俺が描きました。

で、それを読んで神和さんが描いたのがこちら。

 

えぇ、正直こっちのが完成度高いですよね(*´ω`*)

 

女性視点も加わり、新たな事実が分かったということで、ハッピーエンド至極主義(自称)の俺が、このままほっておくわけもなく。

恐らくいつか、また描くかもしれません、が、このままでもそれはそれでいいか(´ω`)

なんて思ってる自分もいるわけで。

どちらになるかはわかりませんが、とりあえず今は、この小説の読後感に浸ってください。

 

それでは、素晴らしい小説を、ありがとうございました。

 

H18. 6/2

 

 

 

 

 

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