誰でもない、マホゥの願い。

  そんな大事なものを、ヤクが破れるはずも無い。

  彼自身は気づいていないのかもしれないが、彼にとって、彼女の言葉は、命令に近い、絶対的なものなのだから。

 

「……すぐ戻ります。それまで、待っててください」

 

  彼は、栄養剤と言われ飲まされた薬と同じものが入ったビンを片手に、彼女に背を向けた。

  そう言って走っていった彼を見送る彼女は、一体どういう心持だったのだろうか。

 

  彼は、町中の人に薬を配って回った。

  事情を説明する手間は無かった。

  皆、マホゥが作り、それをマホゥの連れが配るという事に何の疑問も抱いていないから。

  皆の笑顔を見ながら、彼は、マホゥにも見せたい、と心に薄く、そう、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

  少年を迎えいれる様に、両手を下に広げて座り込む女がいた。

 

 

「…………」

  それを見下ろす、一人の少年がいた。

 

 

「………どうしたんですか…?」

   この台詞を言うのはやはり彼で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

  彼女はその言葉に返事をすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、マホゥの使いのものです」

 

  その後、彼女の意思を継ぎ、彼は薬師になる。

  彼女の今までの成果が書かれた資料は、彼が救いたいと思った人たちの命を幾度となく救った。

  そうして、彼は人々に慕われ、奉られるようになっていく。

 

「いえいえ、それでは。このヤクを。食間に飲んでくださいね」

 

  彼は自らの名を名乗らず、彼女の使いのものとして振舞った。

  お陰か、彼女の名前はその後も語り継がれていき、そして彼自身も。

  病気という、今までなにも有効的な手段がなかったものをたちどころに治してしまう彼の姿は、どんな事でもやってのける、奇跡のようなものに見えたのだろうか。

 

『マホゥの使い』

 

  彼がいつも言っていたその言葉は、時を掛けるごとに奇跡を起こす人という意味を持っていき、彼自身の名前も『薬』という形で語り継がれる。

 

 

  そして奇跡を起こす人に使う『魔法使い』なんて言葉が生まれるのは、もう少し先のお話。

 

 

 

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