ここは……確かオレが3歳まで住んでた家だ。母さんと父さんがいる。
そしてあれは昔の――。そっか、夢を見てるのか。これはいつだったかな、記憶に残っている気がする。
庭で太陽と砂遊びをしていると、お祖父ちゃんが父さんの運転する車に乗り込む。2人がオレ達に向かって笑って手を振っている。
母さんが家から出てきてオレの頭をなでながら、いってくるねと言い、
ペンダントをオレの首にかけてから少し小走りに車に乗り込む。
その車はどんどん小さくなっていき……消えていった。
あの頃のオレにとってこれはいつもの光景。でも、次の日からはこの光景を見ることは無かった。
そうだ、これがオレが最後に見た『家族』の姿だ。
ダメだ。行っちゃダメなんだ。何してるんだよ。なんで止めないんだよ。行かないでくれよ。
もう一人はイヤなんだ。
STORY6 過去
「っ!!」
勢いよく起き上がる。その反動で顔の汗が布団に落ち、染込んでいく。
手の甲にも汗が落ちてくる。汗だけじゃないか……
「久しぶりに見たな……やっぱTSに来たからかな……母さん、父さん、この時代のどこかに? いるなら―――」
サンにもらったこの時代の服の胸元で額の汗を拭い、もう一度寝ようと横になる。その時、ふとサンのベッドに目が行った。
さっきの音で起きちゃってないかな。
そう思いサンのベッドを覗き込む。
「ん?」
いない。外はまだ暗い。多分2時くらいだろう。どこに行ったんだ?
少し心配になり外に出てみる事にした。ドアを開けると何もない闇が広がっていた。目が慣れるまでは仕方ないか。
数十秒が経ち、やっと周りがうっすらと見えてきたので見渡してみる。しかし人影らしいものは何も見えない。
突然風が後ろから吹いてきた。少し寒いな。でもその風が運んできたものは寒さだけじゃなかった。
「ん? 何だこの臭い……」
焦げ臭い。何かが燃えている。
家の後ろに回ってみると夜の闇の中、赤々としている部分がそれほど遠くない所にあった。
あそこは確か――
「サンの畑だ!」
走ってその場所に向かう。火の中に人影が見える。あれは間違いなくサンだ。
「おい! 何してるんだ! 早くこっちに!」
結構な広さの燃え盛る畑の中心でサンはただ座り込んでいる。
死ぬ気なのか? このやろう! お前は勇者なんだろ! こんなとこで死んでんじゃねぇ!!
思った時にはオレは炎の中を走っていた。
服が焦げる。汗が止まらない。体中が熱い。もう誰もいなくなってほしくない。あの夢を見たせいか、一段とそう思う。
辿りついたオレはサンの体に後ろから抱きつく。
「何してる! 早くここから出るぞ!」
「……大丈夫…私は死なないから……死にたいのに……そう、死ねないんだよ…ゴメンね……」
焼けたジャガイモ1つを両手に強く握り締めサンはそう言った。そしてサンは力なく立ち上がり炎の中に歩いていく。
サンの体が炎に包まれる。服が燃え、髪も焦げていく。体中が火傷で覆われていく。
「何して! ん……だ……」
そう言いかけたオレは驚きで声が出なくなった。
サンの右半身から眩しいくらいの光が出たと思うとサンの体の火傷は全てきれいに治っていた。
一滴の大粒の水がオレの火傷している右頬をかすめ地面へと落ちる。不意に大雨が降る。
畑の炎が音を立て消えていく。辺りに戻る闇。
オレはサンから目が離せずにいた。
何事も無かったかのようなきれいな肌が雨にぬれ、月明かりがサンだけを照らし、やけに綺麗に見える。
サンはオレの方に顔を向け、悲しそうに笑い、来てくれてありがとう、と小さく震えた声で。
顔を濡らす雨が涙のように見える。
ジャガイモがサンの手から離れる。ジャガイモが落ちると同時にサンの体も崩れた。
でも、オレはすぐに動けなかった。
ぼんやりとした月の明かりと、雨が全てのものに満遍なく降り注ぎ、形を変える音だけが存在する世界に、オレとサンはいた。
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