街の外に出ると、二人はすでに殺し合いを始めていた。

 

  ディーネの街での決闘を再現するかのような攻防に思わず足が竦む。

 

  それほどに、二人の攻撃には、容赦というものが一片も感じることができなかった。

 

 

  ――あれが、殺し合い。

 

 

  動かないと、止めないと、声を出さないと……。

 

 

  色々と頭に思い浮かぶ単語。

  でも、何一つそれを実行することができない。

 

  近づきなんてしたら、そう――死ぬ。

 

  その、初めて感じるそれに、オレという一つの存在は、あまりにも小さかった。

  自分がこんなにも弱い、小さいモノだったなんて。

  知らされる、これでもかというほどにオレの頭に響く。

 

  それでも、どうにかして、声を出そうと、足を動かそうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 「シねェぇェェエえエ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  オレの時間は、完全に止まった。

 

 

 

 

 

 

STORY31  殺すための彼女、殺されるための彼女

 

 

 

 

 

 

  目の前で繰り広げられる信じられない光景を目にして。

  絶対に守り通すなんて自分で勝手に決めていた、同年代の一人の女の子の、人を殺すという確かな目線を感じて。

 

  そして、聞いたことの無い、彼女のその声に、言葉に。

  オレは、間違いなく。

  ――恐怖を、感じた。

 

 

 

 

  動けないオレを余所に、二人は今も戦っている。

  カイルの剣は、殺意を持って。

  サンの葉術は、殺意を抱いて。

  相手を殺すのだと、はっきりとした目的で。

 

 

  そのままどれだけの時が経ったのか。

  サンの顔に疲れが見え始めたその時、カイルが剣を突き、それをサンが紙一重で避けたその時。

  カイルは、その勢いによって体制を崩した。

 

  それをサンが見落とすはずも無い。

  カイルの顔がここからでも分かるほどに歪む。

  そして、サンの顔も、ここからでもはっきりを分かるほどに――歪んだ笑顔を見せた。

 

  サンがカイルの横っ腹に手を当てる。

  それをカイルは避けることもできない。

  数瞬後、カイルは、間違いなく。

 

 

 

 

  ――それでいいのか。

 

 

 

 「サン!」

 

  気づいたときには、オレは声を出していた。

  サンが、人殺しになる。

  そう考えたときに、感じた感情は、恐れでも、悲しみでもなく。

  ただ、子供のように、ダメだって、そう。

  だから、オレは声を出した。

  だから、オレは足を前に出した。

 

 

  サンはその声にはっと反応をして――

 

 

 

 

 

 

 

  カイルがその剣を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  赤いものが地面に散ったことを頭の中で整理できたときには、サンは地面に倒れていた。

  カイルは、その赤くなった剣を一度勢いよく払うと、鞘にしまう。

 

  決着がついた、ということだ。

 

 

 

  オレはサンに駆け寄る。

 

  抱きかかえるように彼女の体に触れると、一気に現実に引き戻される感覚を覚える。

  大丈夫か、という言葉をかけそうになって、その言葉を飲み込んだ。

  どう考えても、これは、大丈夫な傷ではない。

  普通なら、間違いなく死に至る傷。

  でも、彼女は笑う。

  その赤く汚れた顔を、不気味と形容できる顔に崩す。

 「アス……、私が大丈夫なのは知ってるわよね……? 私が回復したら、油断してるあいつを後ろから――」

  そう、彼女は死なない。

  この程度の傷なら、一人で勝手に治して、そして何事も無かったかのように起き上がることをオレは知っている。

 

  でも、だからこそ。

 

 「ごめん」

 

  そう言って、オレは彼女を地面にもう一度寝かせる。

  サンは、何を言っているのかわからないのだろう。

  呆けた顔を見せて、オレの顔を覗き込んだ。

  やっと、いつものサンの顔を見れた。

  だから、これが正解なんだと、自分を信じきって。

 

 「カイルさん」

  オレはサンに背中を見せて、その名を呼ぶ。

  彼女は、オレの顔を見るとたんに、つい先ほどまで身に纏っていた殺気を消し、頭を下げる。

 「君の大切な人を殺してしまった。それは何をどう言い訳しても、間違いのない事実だ」

  ただ――彼女は続ける。

 「私も間違ったことをしたとは一切思っていない。だから、戦うというのなら、応じよう」

  そう言って、彼女はまた顔を崩す。

  でも、オレはそんなことを望んではいない。

 

 「いえ、サンはそんなコト願ってもいないです。それに」

  サンの方に振り返る。

  彼女の傷はすでに治っているようだ。

  ただ、オレが何を言うのかが分かっていないから、そのまま寝てくれている。

  そのことに感謝をして、俺はもう一度カイルを向きなおす。

 「サンは、あなたの思う通りには行かない、相当なじゃじゃ馬ですよ」

  そう言って、オレは笑う。

 

  カイルは、その言葉に、気を抜かれたかのような顔を見せた後、軽快に笑う。

 「そうだな、それは間違いない! だが、彼女は死んだ。それだけは私の指示に従ってもらうことにするよ」

  その言葉が言い切ったのか、それともまだ続く予定だったのかは知らない。

  だが、彼女の台詞はそこで終わる。

 「じゃじゃ馬は、そう簡単に乗りこなせないもの、ってね」

  サンが、オレの後ろで立ち上がり、そして何事も無かったかのようなその姿を見せたから。

 

 

 「これは――参った」

 

  カイルが、その言葉を出すまでに、少しあった。

 「これが呪いの――失礼。勇者殿の持つ、不思議な能力というものか」

  少し皮肉めいたその言葉に、サンは苦笑いをしてみせる。

 「そういうこと。だからこの勝負は、あなたは負けることはあっても、勝つことだけは絶対になかった」

 「これはひどい策士だ。どんな傷でも一瞬で治すとは聞いていたが、まさか本当にそんなものが存在するとはな」

  自嘲気味に笑う彼女からは、すでに先ほどまでの気配は一切感じ取れない。

 

 

  終わったんだ。

 

 

  そう思ったとたんに、体がどっと疲労に包まれる。

  大して動かしても居ないのに、さっきまでの雰囲気に飲まれていただけで、体力を消費していたみたいだ。

 

  そうして、地面に座り込んで、目線を地面に沿わすと、そこには太陽が。

 

  彼女はオレのそばに同じように座り込むと、

 

 「大丈夫だった?」

 

  と、カイルやサンを心配するでもなく、何もしていないオレの心配をしてきた。

  周りから見れば、オレは相当疲れているように見えたのだろうか。

 「なんだか……終わったみたいだね」

  太陽は周りを見渡して、そう呟いた。

 「あぁ、終わったよ」

 

 

 

 

 

 

 「で、これからどうするんですの?」

 

  いつだって遠慮なしに確信をついたことを聞いてくれる彼女に感謝をしながら、これからのことを考える。

 「オレは太陽と一緒に元の世界に帰る方法を探したいかな」

  太陽とカイルを皆が待っている宿に連れて行き、説明をし終えた後、オレ達はこれからのことを話し合うこととなった。

  

 

 ――「太陽は君と一緒に居たいと言っている。そして私は太陽に命を助けられた恩がある。だから、私も君達についていくことにするよ」

  戦いの後、彼女はそう言った。

 「ただ、私の目的はまだサンを殺すことにある。だから、君達とは、仲間、というわけではない。そこはしっかりと分かっておいてくれ」

  そして彼女は、笑いながら、不意打ちはしないから安心してくれ、なんて言ったのだ――

 

 

  そんなこんなで、今に至るわけだが。

 「元に戻る方法を探す、とはいっても、手がかりなんて何もないし、今までどおり、皆と一緒にいくつもりだけどな」

  その言葉を聴いて、皆の顔が安堵に変わる。

  そのことに、一番安心感を得たのは、間違いなくオレなんだが。

 

  オレは必要にされている。

  何かができるというわけではない。

  それでも、オレというものを必要としてくれている。

  それって、すごい嬉しいことなんだな。

 

  なんて、そっくりな二人の女子を思い出しながら、その日は眠りについた。

 

 

 

 

 

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