彼はサンに剣を向け、俺はそれを横でただ見ていた。
何が起こったのか、それの把握に必死だった。
太陽に助けを求めるように目を向けると、彼女は顔を伏せる。
最初からこうなることが分かっていたかのように。
「え――何? 悪い冗談は止めてくださいよ……」
サンは引きつった笑いを浮かべながら彼に話しかける。
だがそんな問い掛けにも彼はただ冷たい目線を送るのみ。
「自分が一体何者で、今から何をするのかを考えれば……答えは案外簡単なものだろう?」
その冷淡な言葉が、俺とサンの思考を凍結させる。
彼、カイルは――サンが何者なのかを、知っている。
そして、彼は剣を向けている。
「さぁ、じっとしているなら私は楽に済ますことができるからいいんだが、もう諦めたのか?」
ビクッ、と、サンの体がはねる。
顔は青ざめ、手は震えている。
殺されるということが怖いんじゃ無い、自分が何者なのか知られていることが――。
「ま、待ってくださいよ。カイルさん、サンは別に悪いことをしてるんじゃないでしょう? ならなんでそんなことをするんですか」
そういうと、彼は一瞬俺の顔をすっと見て、そして少し笑った。
「……なんだ、彼に何も言ってないのか? それなのについてきて……いや、言っていないからついて来てくれるのか」
彼はサンを見下ろす。サンはさらに下を見続ける。
カイルが息を吸って、俺に顔を向けた。
その時だ。
「分かりました。いいですよ。戦いましょう。この前の続きをしましょう。あなたの、気が済むまで」
彼女は、まだ震えていた。
でも、目は彼のそれを確りと捉えていた。
その表情に少し驚いた風を見せ、そしてそれはすぐに消えていった。
「なら、始めようか。殺し合いを」
STORY30 ノットイコール
あまりの展開の速さに、置いてけぼりを食らったような感覚に襲われながら、歩いていく二人を見ていた。
隣にいる太陽は、俺を心配してか、ずっと横に居る。
なんで、なんでサンはいつもこういう扱いを受けるんだ?
なんでなんだ。
世界を救おうって、頑張ってるんだろ?
なのになんで、いつもいつも――。
「あす? 大丈夫?」
気づけば下から覗くように俺の顔を見ている太陽が眼に入った。
太陽とサン。
驚くほどに似ているこの二人は、片方は人に愛され、そしてもう片方は――。
一体何が違うというのか。
そんな理不尽さに苛立ちながら、こんなところで座って頭抱えてるわけにも行かないと思い出した。
オレは椅子から立ち上がり、彼女たちが消えた方向へと歩き出そうとした。
「あいつら止めてこなくちゃ――な」
太陽にそう言うと、彼女はまた少しうつむいて、何かを言いたそうな……。
「あすは……サンちゃんが何で、何をする人か――分かってないんだよね……?」
さっき、カイルに言われた言葉が木霊する。
サンは……世界を救うために頑張ってるんじゃないのか? そうじゃないのか?
勇者なんて言ったら、ゲームでは誰からも応援されて、そして世界を救って、皆から崇められるものじゃないのか?
オレは……まだ、何も知らない。
何も、知らされてなんかいない――。
でも、
それでも。
「やっぱり、ダメなコトはダメなんだよ」
そう、自分に言い聞かせて、オレは走った。
どんな時だって、パーティは主人公を裏切らないんだ。
そう、だから。
オレはどんな時だって、サンを裏切らない。
そう、決めたから。
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