あと少しで追いつくはずだ。
だからもうちょっとだけ頑張ってみよう。
そう思って、思うことにして、アルタイルまでやってきた。
そう、オレ達は着いた。
太陽がいるかもしれない街に。
STORY29 再会と
「ここが、アルタイル――か」
長い間、テレビでしか見たことがないような広い草原を歩き続けてきたオレにとっては、この光景は信じがたいものとなっていた。
この世界には、オレの住んでいた世界を凌駕する技術もあれば、遠の昔に捨てられた景色も存在する。
そしてこの街は、丁度オレの世界と同じような感覚だった。
「こりゃ……オレの世界の東京を思わせるようなとこだな」
「トウキョー? 何かの名前?」
隣からサンが顔をひょっこりと出して問いてきた。
それに横目で目を合わせて、オレは頷いた。
「この街の感じが、オレの世界って思ってくれたら間違いないかな。オレはこんなところに住んでたってわけだ」
へぇー、とオレと同じように顔を上げて、上を見上げるサン。
口が半開きになってるのは内緒にしておこう。
「では、まずは宿の方を探すといたしますか?」
ディーネがさくさくと仕切りだす。
その言葉に賛同して、話し合おうかと思ったのだが、マースがディーネの横から何かを差し出した。
それを見て、ディーネはご苦労と言い、宿が決まりました。とだけ述べ、歩いていった。
まぁ、着いて来いってことだろう。
「え、ちょっと待て、嘘だろ?」
そうして着いてきたわけだが、これはどうなんだ。
「嘘じゃございませんことよ? お父様の財力と外交力を舐めてもらうと困りますわね」
ホホホ、と言わんばかりに高笑いするディーネをよそに、オレ達は唖然としていた。
宿って言ったら、あれだ、ベッドがあって、飯が出たらそれでよかったんだが。
これはどう考えても、一流のホテル、ってやつではないのか。
ルームサービスとか出るんじゃないのか、これ。マジで。
オレだって修学旅行とかでホテルに泊まったことはあるが、これはすごい。
そんなことが一度もないであろうサンは、とびきりの驚きとともに、歓喜の叫びをあげそうな雰囲気だった。
そして、皆ホテルという素晴らしい場所に各々感動しつつ、荷物を置き、部屋に入っていった。
オレは荷物をおいて、もう一度外にでる。
そう、目的を果たすためだ。
「っても、特に手がかりがあるわけでも無し……」
部屋を出て、数十分。
俺は疲れから、ベンチに腰をかけた。
街を歩き回っては、出会った人に太陽のことを聞いてみるも、誰一人として首を縦には振らなかった。
ここまで誰も知らないとは思ってなかった。
――いや、思いたくなかっただけか。
こんな広い世界で、たった一人の少女を探すことがどれだけ難しいことか。
分かっていた、でも、分かりたくなかっただけ。
知っていた、でも、信じたかっただけ。
そう、そんなもんだ。
「どしたの?」
「ん」
少しぼーっとしていた。
いつもの調子でひょっこり出てきた少女は俺の表情を、感情を不思議と綻ばせる。
「なんでもないさ。ただちょっと、見つからないもんだなって思ってただけだ」
「そっか、手がかり、ないんだ」
そう言って、彼女は俺の隣に座る。
そしてお互いに何かを喋るわけでもなく、ただ上を見たり、下を見たり……。
なんとなく、お互い、相手の方を見るのは躊躇していた。
そんな時。
「あぁ、太陽。こんなところに……っと、少年ではないか。そうか、会えたのか。良かったな」
聞き覚えのある声に呼ばれた。
いや、そんなことより。
「――え、太陽って、カイルさん。知ってるんですか」
そう、その知っている声は、ディーネの国で戦った、カイルさんだった。
「久しぶりだな少年。太陽が君を探していると聞いたときは驚いたものだ。これもまた奇妙な運命といったものだな」
と、そこまで言って。
「ワームまで行って、そして戻るときに、不意をつかれてな。少し後れを取ってしまった。
あぁ、こんなとこで果てるのかと思っていたその時に、彼女に助けられたんだ」
と、カイルさんは、彼女と言いながら、そう、サンを示した。
何かが、何かが食い違っている。
「カイルさん? 彼女って、こいつは――」
「カイルさーん。どこ行ってたんですかー。もー、探しましたよー」
そう、俺のその言葉は、
「って、……え。あれ、あ――あす?」
太陽という少女に、ずっと探していた少女の声によって遮られ、
「あす!」
その少女の泣き声によって喉から出ることは無かった。
呆然とするので精一杯の俺に彼女は抱きつく。
頭の整理をしているのだが、整理がつく前に、俺も目的が達成できたことと、久しぶりの太陽に対して純粋に嬉しさを覚えるのが先だった。
「やっと会えた……探したんだよ……無事で良かった――」
「そ……それはこっちの台詞だ。追ってきてそれはないだろう」
未だに太陽は涙ながらに俺に抱きついている。
まぁ、でも
「何より、お前も無事で良かった。カイルさんと会えてよかったな」
こいつ一人だと思っていたのだが、カイルさんと一緒だったことで助かった部分もあるのだろう。
こいつはどんな人とでも仲良くなれる。それはもう不思議なほどに。
人脈というのは、本当に命をも助けることがあるらしい。
「うわ、ホントにそっくりだ……」
サンが太陽を見ながら。
それに気がついて太陽もサンを見る。
「カイルさんから話しは聞いてます。サンちゃんですよね? 初めまして、太陽です。ホントに似てますねー」
ぺこっと頭を下げて太陽はサンに挨拶をした。
ただそれだけなのだが、どう見ても同一人物並みに似ているこの二人が一緒にいて会話をしているというこの事実が。
どうにも奇妙で、そして滑稽だった。
「さて、もういいか」
突然、カイルさんが。
「感動のご対面は満足しただろう」
どう考えても何か違う。
そんな空気。雰囲気。感情。
「太陽、少年から離れるんだ」
俺たちが各々の感情をぶつけ合っているこの入り乱れた空間の中で。
カイルさんだけは冷静に――いや、冷徹にこの事態を見ていた。
「太陽がこっちに居るということは、そこの少女は、サン・アテナ。間違いないな」
「え、あ、はい。そうですよ。お久しぶりですね」
突然自分の名前を呼ばれて、はっと我に帰るサン。
しかし、二人の間には、どう考えても違う空気が流れていた。
「サン・アテナ。世界のために死んでもらえるか」
そう言って、剣を抜き。
「太陽の手前だ。不意打ちは辞めよう。正式に戦おうじゃないか、いつかのように」
不敵に、それは笑った。
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