アルタイルまでの道程は、ここにきてやっと後一日のところに迫った。

  時の葉術ってのを練習しながらだったので、暇じゃないと言えば暇ではなかったんだが。
 しかし結果の出ない行動って物に人は面白みを感じないように、例外なくオレも少なからず飽きてきた。

  いや、飽きたと言うのは少し語弊がある。
 いつまでも結果を出せない自分自身にイライラしていたのだろう。

 

  何でオレがここまで必死になっているのか。

  そして何でここまで焦っているのか。

 

 

  その答えは、すぐ目の前にある、小さな背中をずっと。

  ずっと当たり前のように見ていたかったからなんだって。

 

 

 

 

 

 

 

  気づいた時には、もう。

 

 

 

 

 

 

 

  STORY28 そんな昔話

 

 

 

 

 

 

 

「なぁリース。ずっと気になってたんだけど」

  相変わらずの草原を歩きながら、オレはリースと二人で歩いていた。

  他の皆からは少し離れて、一番後ろをゆっくりと歩く。

「はい、なんでしょうか。葉術のことでしょうか?」

  こちらも相変わらずで突然の質問に驚くこともなく、ニコリと笑顔つきでの返答をいただけた。

「いや、そうじゃないんだ。あのさ」

  で、やはり少しだけ言葉が詰まる。

  言おう、聞こう、とどれだけ決心してきていても、やっぱり聞きづらいと少しでも思っていることというものはすんなりとは出てはくれない。
 それは、まぁ、サンのことがあるからなのは分かってた。

「――うん。アラーストノウタ って、さ。一体何なんだ?」

  やっとその言葉が出てくる。
 一度言い終わってしまえば、後はもう楽だった。
 滲む程度の手のひらの汗を、硬く握っていた手をゆっくりと開放することで外気に晒した。
 すぅ、っと。気持ちのいい温度がそれを包んだ。

「あぁ、なるほど。そちらのご用件でしたか」

  いつも通り笑っているのだが、いつも通りの笑顔ではなかった。
 少しだけ表情の裏に読めた、笑顔以外の表情。
 それが何かなんて、オレには分かるはずもなかった。

「わかりました。それでは掻い摘んでご説明いたしましょう」

  小さく咳をして、彼女は話し始めた。

「アラーストノウタという単語は二つの意味を持っています。
 ではまず一つ目。約30年前、この世界全てに衝撃を走らせるようなものが発見されました」

  30年前。

  どこかで聞いたことのあるんだけど、なんだったか。

「世界樹と呼ばれる樹の下に、ある石版があることが分かりました。
 そしてそこに書かれていたことが、今、サンちゃんをこの様な行動に駆り立てている原因です」

  あぁ、思い出した。ディーネがサンに対して言った言葉にそんなのがあった。

「そして、その発見された石版に書かれていたことをアラーストノウタと、そう、言います」

  ふむ。それだけなら難しいことはなかった。
 とりあえずその石版に何かすごいことが書かれていた、と言う話だ。

「なるほど。んで、それに書かれていたことってのは、一体なんなんです?」

  はい、ともう一度小さく咳を。

「そちらの説明も、今からいたしますね」

  もう一度、コホン、と軽く咳をして、彼女は顔を前に戻した。

  そして、話し始める。

 

――まるで、過去を振り返るようにゆっくりと。

 

「2つ目。それは、アラーストノウタという、昔話です」

「……昔話?」

  昔話って、あれか。

  桃太郎とか、金太郎とか……そんなの?

「はい、昔話です。
 他にも沢山昔話はありますが、これは少し違いまして、誰もが憧れるような冒険のお話です。
 なにかそこに教訓があるというわけでもなく、ただ、主人公と仲間たちの日常と戦い。
 そんな昔話が、あるんです」

  オレが想像していたのとは違うみたいだ。
 それは昔話と言うよりも、小説とか、そんな感じと考えた方がオレには分かりやすいのかもしれない。

「時を操ることの出来る騎士、エドワード=アテナ。そしてもう一人」

  この名前、前にサンとリースが話していた時に出てきた覚えがある。
 そして、もう一人、その名前は

「不死の能力を持った女性、ツキヨミ」

  そう、ツキヨミ。

「この二人が主人公の、長い物語です。昔話というにはあまりにも長く、そして完璧といえるほどに出来上がっています。
 まるで、それが現実に起こったことがある出来事のように」

  彼女は語る。

  その表情は、やっぱり過去を懐かしむようにも見えた。

「この二人は、破滅寸前だった世界を救った。そして幸せな終幕。
 そんな、ありきたりなお話です」

  話が終わったのだと思って、一息つこうかと思った時、彼女はこう続けた。

「そして、その昔話と、石盤に書かれていたこと。この二つがあまりにも似ていたため、この二つのことをアラーストノウタ、と。そう、呼ぶんです」

  あぁ、なるほど。

  ただの架空の昔話だと思われていたことが、その石版の発見によって、現実味を帯びてきた、そういうことなのだろうか。

「と、まぁ。こんなところでしょうか?」

「あぁ、ありがとう。なんとなくすっきりした」

  うん、分からないことが分かったのはいいことなんだが。

  何かが分かるということは、それはまた新しい疑問を持たせる要因にもなりえる。

  そしてオレも、また新しい疑問を持つことになった。

  サンはこのアラーストノウタによって行動していると、さっきリースは言った。

  その行動とは、勇者ってのを探す旅のことだろう。

  まぁ本人がその探してるはずのものなんだから、見つかるはずも無いんだが。

  そして、だ。勇者を探すのがアラーストノウタに関係するのなら、その昔話のストーリーは、一体なんなんだろうか。

  そんなものは考えたって分かるはずも無い。

  折角隣に知っている人がいるんだ、ここは聞くのが一番だろう。

「なぁリース。アラーストノウタってのは一体どうい……」

「おーい! アス! リース! 今日はこの辺で野宿しよう! ほらほら、さっさと準備済ませちゃうよー」

  前のほうからサンの大きな声が聞こえてくる。

  それに言葉をかき消されたオレは、また違う日に聞けばいいと、リースと一緒に少しだけ早足で声の主の元へと向かった。

 

  さぁ、今日の飯当番はディーネとユリだ。

  一体どんなものが出てくるかが楽しみではあるのだが。

 

  その楽しみが、恐怖に変わることを、オレは忘れていた。

 

 

 

 

  ディーネ、これからはもうちょっとだけでいいから、ユリの言うこと聞こうな?

  うん、飯を作る時だけで良いんだ。うん。

  お願いします。

 

 

 

 

  

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