「アスさんは……その方法では無理ですよ」

「「……は?」」

  いつも通りサンに葉術教えてもらっていると、突然聞き慣れない声が届いた。

「アスさんは、その方法では葉術を使えるようにはなりませんよ?」

  振り向くと、あぁ。リースがオレ達に話しかけていた。
 瞑った目をオレとサン、交互に向けながら彼女は微笑んでいた。

「使えないって言うのは……なんで?」

  サンが本当に困惑顔で彼女に問う。
 それに一度頷いてオレも彼女に問うめ目を向ける。

「何故って……アスさん。あなたは自分のこと、お分かりになっていないのですか?」

  そりゃそうだ、と言おうとして、口を噤んだ。
 そうか、まだ彼女にはオレのこと話してなかった。

「アスさんは無属性ではありません」

  おぉ? とサンは首をかしげる。
 そんなサンを見て、オレもとりあえず驚いておいた。

  正直、無属性じゃないと言われてがっかりというより、もっと楽に使えるかもしれないという嬉しさのほうが重かった。

「じゃ、アスはなんなわけ?」

  なんだか少しだけ不機嫌さをかもし出しながら、彼女はさらにリースに詰め寄る。

  そんなサンに、リースは『私、見えませんもの』と言わんばかりに彼女の視線を無視して、オレに対してこう、言い放った。

「アスさんは、無属性なんかじゃなく、時を操れるんですよ」

  うん。

  もしもオレが本当に時を操れるのなら。

  多分、その時オレは時間を止める葉術を使ったのだろう。

 

 

 

 

 

  STORY26 時間

 

 

 

 

「「……はぁ?」」

  止まっていた時間を破ったのは、オレとサンの、三流映画のヤンキーがケンカ売ってるような台詞だった。

「時間を操れるって……」

  何言ってんだよ、と可笑しさを腹に抱え込んでいるオレに対して、サンは驚きしか感じていない顔だった。

「ホントに?」

「ホントに、です」

  サンの意外な反応にオレも少し驚いた。
 はて、サンが昔言っていた『属性』って奴には『時』なんてものは無かったはずだが……
 まぁ、『無』も言ってなかったんだから、例外的にあるものなのかもしれない。

「それって……」

「はい、すごいことです」

  オレが冷静にサンの反応を確認・推測している間に、
 当の本人を放って二人の話はいつの間にかずいぶん先まで行ってしまっていたみたいだ。

  サンがオレの顔を見つめる。
 その目は、いつもパッチリとした目なのだが、それよりもさらに1.3倍(当社比)は大きかったはずだ。

「アス、それ、すごい、ことよ……?」

  サンの顔が少しずつ、でも確実に崩れていく。
 崩れるというか、ほにゃ〜、ってなっていく。……言葉って難しいな。

「すごいすごい! 時を操れるなんて! そんなの、ホント、歴史の本でしか聞いたこと無いよ!」

  サンは自分のことのように(と言うか、オレ自身はすごいことなのだと言う自覚が無いからそこまで喜んでいない)喜んでいる。
 それを見て、リースもなにやらまだ微笑んでいる。

「時属性の護衛――まるで……」

  と、言ったところで彼女は突然口を噤んだ。
 ん、一体どうしたんだろうか。台詞の次が気になる。
 「なんだ?」と聞く前に、リースがその台詞を受け継いだ。

「まるで……神話の中の、ツキヨミとエドワード=アテナみたい――」

  その台詞に、サンは一気に顔を青くした。
 額からの汗が目に見えて吹き出る。こいつ、嘘付けないタイプだな。

「――なにを、言ってるの? 別にアスをエドワード=アテナに投影するとは限らないでしょ。他にも時属性の偉人なら沢山……」

「そうですね。時属性の方はそのほとんどが歴史上重要な人物になることが多いです。
 まぁ、それだけの力を持っているのですから、当たり前と言えば当たり前ですけどもね」

  でも。彼女は続けた。

「ツキヨミ――勇者さんは、世界に一人しかいませんから」

  サンは、地面をにらめつける。
 そこまでして、やっとオレは話がつかめてきた。

  サンは、リースに何らかの形で『勇者』であることがばれている。

  サンは誰か、『他人』に自分が勇者であることが知られることを極度に、病的に恐れている。

  それが何故かは知らない。オレだって教えてもらっていない。

  そう。

  オレだって『他人』だから。

 

  ……いかんいかん。

  こんなことで感傷に浸ってる暇は無い。

  オレは、彼女を守ると決めたんだ。

  何もできないオレは、もういらない。

  あの時、彼女の肩を叩く事のできなかったオレは……オレが殺した。

 

「そうだな。一人しかいないんだろう」

  誰も口を開かない中、少し度胸が要ったが、それを搾り出して声も絞り出してみた。

「それを探し出して、世界を救うのが、オレ達の仕事であって目的だ。頑張りましょ」

  ね? と笑顔を作ってリースを見据える。
 それに、そうですね。とやはり笑顔を返してくる彼女は、どこまで分かっているのだろうか。
 そうしてから、サンにも頑張ろうか、と声をかけてみる。
 その言葉にやっと彼女も顔を上げて、うん、といつもの笑顔を見せてくれた。

「んじゃさ、オレはどうすれば葉術が使えるようになんの?」

  話をさっきのから逸らすため、そして今の雰囲気を打破するために話を振る。
 それを察してくれたのか、リースはまたもや笑顔でオレを『見てきた』。

「そうですね。どうやら『出す』練習はすでに終わらせたみたいですので、次すべきは知識を得ること、でしょうか」

「知識……?」

「ええ。多分、今までの練習法はイメージ的なものだったと思います。確かに普通の葉術ならそれで大丈夫です。
 しかし、やはり特殊なものでして。あ、時というものが、です。だから、まずはその力は一体どういうものなのか、それを知ることが、第一かと」

「なる、ほど」

  詳しくは分かっていない力を今、自分が持っている。

  それは、今まで感じたことの無い程の高揚感をもたらした。

  その力があれば、何だってできる。

  その力があれば、今よりも強くなれる。

  その力があれば、サンを、助けることができる。

 

「じゃあ、教えてくれます?」

  彼女が説明を終わるのと、オレがそう決断するのは、ほとんど同じだった。

  そんな突然の申し出にも彼女はやはり笑顔で頷き、そして手をとった。

「私もまだまだ知らないことばかりですが、それでよければ」

  もちろん、とオレも笑った。

  その時、サンの気が少し沈んでるように見えた。

「ん、どうし「それでは、早速開始しますか?」

  オレの言葉と伸ばしかけた手は、リースの言葉でさえぎられる。
 そんなことに気づかない二人のうち一人は、ご飯作ってくる、とオレに背を向けて走っていってしまった。

  オレは、また、肩を叩くことができなかった。

 

「どうしました?」

  リースがオレの顔を覗き込む。
 とは言ってもやはり目を瞑っているわけだが。

「いや、何でもないっすよ」

  そう言って、オレはリースと向き合う。
 そうですか、と彼女と目を合わせて、それでは早速、と言う彼女に頷いた。

「それでは、ちょっと準備を……」

  と言って、少し離れていった彼女は、俯きながら、確かに、こう言った。

 

 

 

「――どうせ、叶わない願い、か」

 

  その言葉の意味を、オレは、どうしても聞くことが、出来なかった。

 

 

 

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