暑い…時々吹く風が気持ちいい。少し長い草が風に揺れて顔に当たる。それがこそばゆく目を覚ます。
顔を横に向けて辺りを見てみるとそこは何処かの草原だった。
「どうなったんだっけ……」
オレはその草の上に寝転がったまま何が起こったのかを思い出してみる。
「……そうか、ここはTSの時代なのか。ふむ、なるほど――」
STORY2 TS
マンガとかではここで混乱したりするんだろうけど、オレはどうしようもなくワクワクしていた。
「やった! オレ今冒険してんだ! よっしゃー!! 夢だったんだよ! 未知の世界…いいね〜! 最高の響き!」
オレは力強く立ち上がって青く輝いて見える空、そして暑く、強く輝く太陽を見上げて右手を突き上げた。
そう…ここからオレの伝説がはじま………
「わっ! 何してんの! 伏せてー!」
と、突然後ろから誰かの声が聞こえた。
なんだ? と思い声のした方を見ようとして、視線を下におろした瞬間、狼みたいな獣がこっちに飛びかかって来ていた事に気づいた。
『うわっ! だめだ! 避けきれない!』
そう思った瞬間、顔の右横スレスレを飛んできた火の球が狼に直撃。
狼は吹っ飛ばされ、地面に倒れた瞬間に粘土の様に崩れて消えていった。
「え? え? えぇ?」
オレは次にその火の玉に驚きその場にへたれ込んだ。
腰が抜けるってのはこういうことなんだな、なんて思っているとさっきの声の主がこっちに歩いてきて言った。
「キミ、こんなところでなにしてたの? あぶないなぁ」
声のする方を見上げる。日の光がまぶしい。相手の顔がぼんやりと見える。でも声だけでも誰だかすぐに分かった。
「太陽! お前も落ちたのか! 良かったぁ、実は一人じゃ心細かったんだよな〜!」
「ん? 何言ってるの? 私はタイヨウなんて名前じゃないよ? 大丈夫?」
その『太陽』ではないと言う女の子はこの暑い日に長袖を着ていた。
太陽は半袖着てたから違う人……というか服全体が全く違う。なんかゲームの中に出てくる女の村人とかが着てそうな服だ。
ってことはやっぱり太陽とは違う人なのか。そしてその子は立てないオレにあわせるためか座り込み、オレの顔を覗き込む。
にしても何もかもが太陽にそっくりだ。オレンジ色の目と髪の毛、声に至っても同一人物並だ。
でも本当に太陽ならこんなことで嘘つかないか。
「って大丈夫じゃないじゃん! あ〜! ゴメンゴメン! さっきの炎で顔やけどしちゃってるよ! 大丈夫? 立てる?」
そう言われるとたしかに右の頬がヒリヒリしている。ってか結構痛い。
太陽に心配されてるみたいな気がして恥ずかしいのでちょっと張り切って立ち上がってみる。
そして大丈夫、立てるよ。と言う代わりに軽く笑ってみせた。
「よかった」
そう言って彼女も笑った。でもオレとは違う満面の笑みでだ。
太陽でもこう笑っていただろうな、なんてことを思っていると彼女はすっと立ち、オレの方を見ながら後ろに下がっていく。
腰の辺りまである長い髪が風になびき、顔の前に運ばれる。彼女はそれを手でかき上げながら言った。
「一人旅でもしてるの? もうここから先には私の住んでる村しかないよ? まぁとりあえず今から私の家に来なよ! 手当てもしたげたいし、さ」
うわっ! これは反則! とか一人で考えてる事に気づいた。顔のやけどが一層痛みを増した。
でもとりあえずここがいつの時代のどこなのかも分からない自分にとっては
日本語が通じる優しくて太陽に似ている女の子の存在は相当ありがたい。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「ありがとう」とさっきと同じ様に笑った。すると彼女もさっきと同じように笑ってくれた。
「じゃあついてきて! 私の名前はサン! サン・アテナ! よろしくね。で、キミは?」
「オレは……」名前をそのまま言おうとしたがサンの名前を聞いた感じ、横文字チック。明日斗は言いにくいかな。
じゃあ……
「オレはアス・テヅカ! アスって呼んでくれていいよ。こちらこそよろしくな、サン!」
と、太陽と同じ呼び方をしてもらう事にした。反応しやすいし。
遅くなった自己紹介をしながらサンとオレは長く伸びた影を背に歩いていった。
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