目の前に広がったのはサン達の話を聞いて想像していたのとは似ても似つかない光景だった。
別に破壊されたわけじゃない。単に廃れていった、と言う表現が合う。
家だって道だって特に外傷はない。ちょっと汚いだけだ。ただ、中身がいないんだろう。
どこの家にも、道にも、人のいる気配が全くしなかった。
「なぁ、サン」 振り向かずに、呼んだ。「これが、クエーサーなのか?」
「えっと……私も来たことないから分からないけど……これはさすがに違うんじゃない……?」
「いいえ、ここはクエーサーですわ。ただ……ちょっと――大分、変わってしまったみたいですが」
皆、街を見渡すだけで、動こうとはしなかった。
もともとこの街をよく知らなかったためか、オレが一番落ち着いていた。
こういうときは落ち着いてる奴が冷静な判断でなんか考えないとな。
「まぁとりあえずここに突っ立っていてもなんもないし、動こうか」
その言葉に全員が頷いて、街を歩く事になった。
STORY19 小僧とユリと神々と
「なんもないっすねぇ……」
「だなぁ……」
10分ほど歩いたが、やっぱり誰もいない。そして今は街の中心に会った噴水に腰掛けて休憩している。
隣に座っているユリと、前で立っているサンとディーネをボーっと見ていた。
珍しく二人で真面目に話し合っているみたいだ。内容は多分これからのことだろう。
マースはまだどっかで人を探してるんだろな。
「オレ、何しよっかなぁ……」
なんて独り言を呟くと、どこからか、かすかに足音が聴こえてきた。
マースにしては軽い。走ってるな。どこからだろ?
噴水の向こう側を見てみるが、誰もいない。
気のせいかと思ったが、ユリが立ち上がって周りを見渡していた。
聞こえたのはオレだけじゃなかったらしい。やっぱりどこかに人がいるんだろうか。
「きゃっ!」
突然サンがよろめいた。どうしたのかと思ったら小さな男の子がぶつかっていた。
倒れるかと思ってとっさに支えにいったが、衝撃は少なかったらしく、持ちこたえた。
そして、さっきの男の子は……
「うわっ! 放せって! 放せよぉ!」
ユリに捕まっていた。
「放してほしかったら、先にお前が盗ったもんを放すんだな」
普段見ないような顔つき、目つき、口調で、掴んだ子供に向けて言い放った。ちょっと怖い。
「え゛! ばれたの……?」
「当たり前だ」
二人はなにやらよく分からないやり取りをしている。何話してんのかな。
「なぁ、ユリ。こいつ何盗ったんだ?」
「こいつ、こともあろうか姉貴から、兄貴が稼いだ賞金全部盗ろうとしてやしたよ」
え? とサンが財布を探す。ポケットのある場所を片っ端から叩いていた。
「うわっ。ホントだ。盗られてら」 両手を肩の高さまで上げて、手首から下をぷらぷらさせて、ありませ〜ん、とポーズをとった。
「ユリ、よく分かったな。掏られた本人気づかなかったのに」
「へへ、これでも元盗賊ですからね。さすがにこれくらいはわかりやすよ」
照れたらしく、少し顔を下に向けて笑っていた。
「そういやそうだったな。え〜と……なんだったっけな、確か『マーキュリー』って呼ばれてたんだよな」
それを聞いた瞬間、ディーネと、小僧がユリを見る目が変わった。
「マーキュリーって……あのマーキュリー!? トレマー・キユリー・メルクリウス!?」
早口言葉のようにユリのフルネームを口にした後、また目が変わった。
「マーキュリーさん! いや、兄貴!! 俺を弟子にしてください!!」
捕まれていた手はそのままに、目いっぱいにユリに頭を下げる。
それをオレとサンは驚き、ユリはやれやれ、といった感じで、ディーネはなにか――軽蔑的な視線だった。
「悪いな坊主。マーキュリーという名は捨てた。それに俺は弟子はとれない。何故なら!」
オレとサンを指差した。「俺がすでにこのお二人の弟子だからだ!」
「ってことは……師匠の師匠!? 神だ! 神々としか言いようがないよ!」
「よく分かってるじゃないか! そうさ! このお二人は神に等しい存在なのだよ!」
なにやら二人で盛り上がっている。さすがのサンも面食らっている。
とりあえずほっといて、金を返してもらおう。
「なぁ、金、返して」
小僧は、はっと体をこっちに向けた後、オレに対しても礼をして、頭を下げたまま財布を差し出してきた。
「そうとは知らず……スイマセンでしたーーー!」
「い、いや。返してくれるなら気にするなよ。いいっていいって」
そう言うと、満面の笑みを浮かべて、オレ達に何度も頭を下げてきた。
「ありがとうございます! ああ、やっぱりあなた達は神だ……。うっ! 後光が眩しい……」
「やりすぎね」
サンが小僧の後頭部をバシッと叩く。いたっ、という言葉を黙殺して続けた。
座り込んで、小僧と同じ目線の高さにした。「まぁ、これに懲りたらもうしないこと。わかった?」
なんか優しいお姉さんって感じだな。なんだか小僧もおとなしく聞き入ってるし。
これで一件落着、と思った。
「あのっ!」
思ったのにぃぃ……
「マーキュリー師匠の師匠なほどの方だから、頼みたいんです! 頼みを聞いてくれませんか!?」
「なぁに?」
座り込んだままのサンが優しく聞き返す。
「この街……見ての通り皆いないんです。オレと、もう少しだけしかこの街には残ってない。
ここは知っての通り本当はもっと活気にあふれた街だったんです!
なのに……勇者って奴がこの街に来て、街の皆を連れて行っちゃったんだ!」
何? 勇者だって? んなわけあるかい。勇者ならここに。
「へ〜ぇ……私たちの追っている勇者様ってのはやっぱり悪人なんですのね」
ディーネが人を見下した視線でサンを見ていた。なんか……さっきからのディーネ、腹立つな……
「小僧。そりゃ偽者だわ」
サンがオレを振り返って泣きそうな顔をして見やったので、大丈夫だ、と視線で言った。
「んなことするような奴は、もともと勇者って定義から外れてる。安心しろ」
頭を軽く叩いて、一度小僧と目を合わせた後、顔を上げて皆に向けた。
「さて。んじゃその偽勇者様を退治しに行きますか。な?」
サンとユリは力強く頷き、小僧はオレを涙ぐんだ瞳で見つめていた。
そして、なんだかんだ言っても、ディーネも賛成していた。口では、やれやれ、って言ってたが、
その言葉が遠まわしの肯定だって事に気づくのに時間はかからなかった。
危ないので小僧は街に残し、オレ達だけで行く事になった。場所は街から歩いて10分ほどのところだった。
「なんっつうか……見るからに……」
「悪者住んでますって感じね」
城だった。黒だった。やっぱり性格変わってきてるかも……。
「バックに暗雲&雷ありゃ完璧だな」
「私の城とは似ても似つかないですわね」
「さ〜て、早速入りますかね」
「でも、鍵かかってるよ」
「任せてくださいっす。ここで登場、ユリ君っす」
さっそうと出てきた…つもりだろう。体育会系のノリが雰囲気を崩している事に本人は気づいていない。
ポケットから針金二本。鍵穴に入れる。テレビだったらモザイク。小説なので特に修正なし、ってか。
「ちょちょいの……」
と言ってからちょっとかかった。
「ちょい!」
「じゃないな」「じゃないね」「じゃないですわね」
「ぐっ」
一斉に。それはもうきっちりと。「じゃない」の部分は見事にはもった。
皆待っていたんだろうな。このツッコミを入れるときを。虎視眈々と……負けらんねぇな……
「だってだって……」
しょんぼりしているユリはほっといて中に入った。
中は薄暗く、やっぱり悪者が住んでますって自己主張してる。
「ゲームとかじゃ敵がいたりするけど、それはないだろ。現実世界だし」
「敵が出てくるスゴロク? すごいねー」
「スゴロクではないと思いますが……敵が出てくるってのは面白そうですわね」
「………気にするな。先に進もう」
後ろから走ってきたユリと合流して、中へ中へと、暗闇の中へと進んでいった。
「にしても……何か忘れてる気がする。……お、これはなかなかアニメっぽい引っ張り方だな」
「アニメってなになに?」
「何ですの?」
「何っすか?」
「ではまた来週」
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