あの後、何度もしつこく聞いてくるディーネを納得させるのにホントに苦労した。
 何もないと言ってるのに、なんでサンの目が赤いのか、とか、なんでサンの腕に握られたあとがあるの、とか、
 なんでオレの服の胸元にしみが付いてるの、等々……

  それに一つひとつちゃんと答えたわけだが、それでもディーネの視線からは未だ何か訴えるものを感じる……
 ここは無視して他の事を考えるに限る。

 

STORY18  クエーサー

 

  さ〜て……んじゃここでアニメの十三話ぐらいでよくある、話の整理、というものをしてみようと思う。

  まず、ここは地球とは違う星と考えていいだろう。月が増えるというのもオレの時代よりも未来というならありえるが、
 ここの科学技術から見てその線はまず無い。そして過去の歴史で月が二個だった時は無い。こっから考えてここが地球だとは思えない。

  んで、次に『魔王』ってやつだ。三十年前の石版にのっていた話らしいんだけど、
 サンはそれをおじいちゃんから聞いていたから昔話か、伝説かと思ってたらしい。まぁそりゃそうだろうな。
 ディーネが知っていたのは、城での勉強で学んだから、らしい。そしてそんな勉強なんてもので習うくらいの事だから
 この石版の出現は世の中に結構な衝撃を与えた、ってことだろう。そこんところはまだよく分からない。

  そいで、具体的に『魔王』ってのがなんなのかは分からないけど、それを倒せるのが『勇者』――サンってわけだ。
 何故かサンは自分が勇者だってことは言いたくはないらしい。人に言いたくない内容を詳しく聞くのはなんだか気が引ける。
 気にはなるけど、それは仕方ない。サン自身が話すときを待つしかないだろう。ディーネ達には勇者を探してお供する、と言っていた。

  そうそう、ユリはサンが勇者って事を知っている。オレが言ったから。もちろん勝手に。
 でも、ユリはその石版の内容を全く知らないみたいだ。だからかサンも、ユリに言った時には何も言ってこなかった。

  どうやら石版には相当な事が書いてるっぽい。ものすごい気になるけど、またあんなふうに泣かれたら困るし……
 今はやっぱ我慢しかないみたいだな。日々之辛抱。とはよく言ったものだ。

  あと……なんかあるかな……。葉術は特に進歩ないし……料理が上手くなったぐらいか……。
 あ、今日オレとサンが当番じゃん。豆板醤じゃないぜ。ふっ……言ってて哀しくなってきた。
 あ〜〜、なんか辛いもん食いたくなってきた。今日はこの世界の人の知らないもの作ってみようかな。
 マーボー豆腐とか……豆腐ねぇや。ラーメン……麺がない。エビチリ……エビねぇし作り方知らん。
 ……やっぱり今日もサンのお手伝いに徹しよう……。何つくんのかな〜……腹減ったな〜……

「お腹減ったの?」

  サンがオレの顔を下から覗き込んでいた。

「ん」 コクン、と頭を下に一回落とした。「当たり。今日オレ達が当番だろ? 何つくんのかな〜、ってな」

「あ、それなら考えなくて大丈夫そうだよ。ほら」

  彼女の指した方を目でたどると、うっすらと何か白いものが見えていた。

「あれって、次の街?」

 今度はサンが頷いた。「そだよ」 体も進行方向に向けなおして、並んで歩く。「名前は『クエーサー』っていうんだ」

「クエーサーねぇ……。飯は美味いのかな」

「分かってないわねぇ」

  ふふん、と腰に手を当てて自慢げなポーズをとる。

「クエーサーって言う街はね、そりゃも「それはそれはおいしい料理が目白押しですわ!」

  ずいっとオレ達の間に割って入ってきた。いつものことだ。

「クエーサーは別名、『食材の街』とか『世界の台所』とか『料理人の登竜門』など、
 様々な名前がつけられるほどの料理国家ですの。もちろん私の城の料理人は全て、いいですの? 全てがクエーサーの、
 しかも一流のシェフぞろいですわ。な・の・で! どこで食すかは私にお任せくださいな。
 一番美味なお店をお探ししてご覧に入れますわ」

  ニコニコとオレの顔を覗き込む。悪気は全くもって無いようだ。
 というより、オレはさっきサンがしたポーズの方が気になっていた。

『さっきの自慢げなポーズ。あれって太陽のくせだよなぁ……』

  くせまで似てるのか……と感心していると、いつのまにかサンとディーネはオレの後ろでいつもの小競り合いをしていた。
 そしてそれをいつも通り、サンをユリが、ディーネをマースが止めに入る。

「アス様は私の婿になる御方なのですよ!? あなたが気安く話しかけていい身分じゃないのです!」

「ふふん。アスはね、私の護衛なの。分かる? そしてあの大会は最初から賞金目当てなのよ。
 あたしの命令で出たようなものよ。決してあなた様のためではございませんのよ?」

  それに、とサンは追撃を加える。

「四日前の森のセリフ、あれをお忘れになったのかしら?」

  ディーネが珍しく言葉に詰まった。四日前……何があったっけな……

  あ、あれだ。オレがサンに葉術を教えてもらおうと森に行って、ディーネが儚くなった日だ。
 ってことは……セリフってのは――。

「あ〜……あれか……」

  一人恥ずかしく空を見上げる。別にそういうつもりで言ったんじゃないんだけど、
 確かに考えてみればあのセリフはそういう意味にとれる。それに気づいたのが遅かったから言うに言えなかったんだ。

  それに……、別にそれでもいいか、なんて思えてきてるし。
 な〜んか……オレ、変わったなぁ。

  その後、ディーネはオレ達――オレとサンの後ろを今にも襲ってきそうな形相で歩いていた。
 恐いっす……

  

 

「ほい、と〜ちゃ〜く! っす」

  ユリが開いていた門を両足でジャンプしてくぐった。続いてマースが静かに門をくぐる。
 その時後ろにいたオレは、門をくぐった二人の顔がなにかおかしい事に気づいた。気になって少し早足で門をくぐった。

  そしてオレは、その街の景色を前に、進む事ができなくなった。

 

「ここが……クエーサー……?」

 

 

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