「後は決勝戦だけか……相手は多分サンだろうな」

  選手控え室で、決勝の相手が決まる準決勝の結果を待つ。

  さすがにもうそろそろ疲れが限界に近い。
 勝った者には多くの賞金と美しい姫様の婿になれるという事で
 国中の一人身男といっていいんじゃないか、というほどの奴がエントリーしてきた。

  これでも予選でほとんどが落とされて本戦に残ったのは十三人だけだった。
 今、オレ達、オレとサンとユリは王様の権限で無条件で本戦に出る事ができ、十六人でトーナメント中だ。

  オレは3回勝ち抜き、決勝戦へと駒を進めた。
 一回戦目は圧勝。二回戦目は苦戦の末、相手の術力切れによるリタイヤ。
 三回戦目はユリとあたったけど、ユリが棄権したので不戦勝。一回本気で戦いたかったんだけどな。

  そして今、闘技場ではサンともう一人準決勝まで上がってきた剣士が戦っている。
 女性が優勝したら倍の賞金がもらえるという事でサンは張り切っていた。
 よって相手はサンの猛攻にあって、ボロボロ、ってとこだろう。

  五分ほど経って観客の声援が上がった。
 勝負が決まったのだろう。さぁ、すぐにオレも出なくちゃな。
 相手がサンとなると、やっぱ危険を承知で近づいて一発で決めるっきゃないよな〜……

「アス・テヅカ殿。前へ」

  入り口の門に立っている兵士がオレの名前を呼んだ。

  「ん」と、両頬を手で二回叩き気合を入れて立ち上がる。


「さっ、いくとしますか!」




STORY14  銀髪の剣士





  闘技場の扉が開き、足を進める。

  顔を上げて相手を見てみると、そこに立っていたのは予想していた人ではなかった。

  立っていると思っていた方は特に外傷は無く、少し疲れ気味にこっちに向かって歩いてきた。

「あいつ、相当速いよ。それに剣の腕もすごい。気をつけてね」

  そう言うと控え室の方へと戻っていった。

「負けんなよ〜!」

  と、台詞を残して。



  闘技場の中央へと行き、相手をよく見てみる。大人、だな。
 ほっそりとしている体。男性にしては小さめだ。得物は……レイピアか。
 さらさらと音のしそうな綺麗な銀髪を後ろで一つにまとめ肩から前に持ってきている。

  そして何より、口までの、目と鼻だけを守る鉄仮面が印象的だ。鉄仮面の奥から見える銀色の瞳に見とれてしまう。

「よろしく」

  相手が右手を差し出してきた。
 はっ、と正気に戻りこちらも右手を差し出す。

「こちらこそ」

  握った手を軽く上下に振り、離すとゆっくりと右手に剣を、左手を鞘に置き、腰を下げて構えた。

「始め!」

  開始の合図が出される。

  とりあえずオレも構える。『対剣』用に作った我流の構え。

  剣道三倍段とはよく言ったもので、素手の者が武器、剣を持ったものに勝とうとすると相当な腕がないと無理だ。
 でも今は硬くなったバンテージで剣を受け止められるので勝てる要素は、ある。


  始まって何分か経ったが、相手は一向に動かなかった。オレは動けなかった。

  カウンターを狙うオレの構えじゃ先制攻撃は自殺行為だ。それを分かってか相手は動いてはくれない。

「まぁいいさ」

  そう呟いてこの剣士に勝つ方法を復習する。


  レイピア、細剣ならば突きでくる。それを左手で掴んだ後、バンテージで巻き取り振れなくする。
 そうなったら後は簡単だ。巻き取った剣を引っ張ってこっちに体重をのさせた後、スポンジの入った右拳でカウンターを一発。
 脳震盪で立てなくなってリタイア。これが一番だ。実際一回戦目はこれで圧勝だった。
 対戦する人達は他の人達の試合を見れないから何をするかは分かっていない。勝てる。


  そこまで考え終わると、とうとう剣士が動いた。向こうも色々と考えているはずだ。油断しないように……


  思った通り、オレの体に向かって突いてきた。

『はやっ!』

  服が裂ける。サンに『速い』と言われて無かったら危なかった。
 その突きを左手で掴む。そして包帯を巻きつける。

『勝った!』

  そう思った。それがいけなかった。
 単調に右ストレートにいこうと思ったオレの右横腹に鈍い痛みを覚えた。
 何が起こったのか、視線を痛む方へと下ろす。鞘だ。さっき剣士が左手に持っていた鞘を振ったのか。
 力が入らない足に、相手の足払いが入り仰向けに倒れこむ。
 包帯を解かれ自由になったレイピアが嬉しそうに左右に振られている。
 そしてオレの喉元に向けられた。

「勝負有り! 勝者、カイル=ウラヌス・ハーシェル!」

  銀髪の剣士は剣を鞘に戻し、オレに向かって語りかけてきた。

「少年、 勝てると思ったとき、そのときすでに負けている。 忘れるな」

  負けた。完全に。

  心の中までも読まれてたのか。あの一瞬で。
 悔しくはあるけど、なんかすっきりした気分だ。負けて仕方が無い。そう思えた。

  ズキズキと脈を打つごとに痛む横っ腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
 そしてオレを負かした相手に尊敬の意を込めて右手を差し出す。
 仮面の中の瞳が笑った。そして握手をする。さっきよりも強く、長く。

「覚えときます」

「君は強い。その心の隙が無ければ鞘をもかわされていただろうな。これからも精進すべきだ」

  観客が突然騒ぎ出す。あっという間の出来事に言葉を失っていたのだろうか。
 そして王様が座っている方へと顔を上げる。と、そこには満足気に拍手を送っている王様と、
 それとは対照的な姫様がいた。

  オレが見ている事に気づき、手すりを両手でがっしと掴んで叫んできた。

「私の蹴りを避けれて、なんで優勝できないんですか〜!!」

  あっ、そうか。そういやそういう闘技会だったな。
 ということは、この銀髪の剣士が姫様と結婚か……。お幸せに。
 今、オレ顔にやけてるな。

「大丈夫です。ディーネ嬢」

  そういうと、剣士は鉄仮面に手をかけて、素顔を公にした。

  綺麗な顔……姫様も綺麗だが、この剣士は男なのに姫様とはまた違った綺麗さの漂った顔立ちをしている。

「自分は、このとおり女なんで」

  ………女。

「賞金は倍だったな? よろしくたのむ」

  ………女?

  あっけにとられているオレ、観客、姫様を他所に、銀髪の女剣士は凛とした態度を崩さなかった。
 王様は「うむ、分かった」と冷静なのか、アホなのかよく分からない。



  糸が切れたかのように、会場全体が沸いた。突然現れた女剣士に男はもちろん、女までも虜って感じだ。
 驚きを隠せないオレに向かって彼女は

「女だって分かったら皆全力で相手してくれないだろう?
 それで勝っても、本気が出せなかったって言われるのは嫌だからな」

「オレはどんな相手でも本気で行きますよ」

「ふふっ。どうだかな。女性に手を上げた事があるのか?」

  無い……な。

  う〜……負けた。さらに完璧に負けた気になった。




 

 


  控え室に戻るとサンとユリがガッカリとした顔をしていた。

「まぁ、そんなに落ち込まなくっていいって。もっと強くなるからさ」

 


「賞金が……」

  そっちかい。

 

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