「おら〜!!やっと着いたぁぁ!!」

「夜中にいきなり変な声出すんじゃないっ!」

「いたっ」

 叩く事は無いだろ、叩く事は。

 五日かけてやっと緑々した草原を抜けて、次の街に来る事が出来たんだ。ちょっとぐらい喜んだっていいと思う。

 でもやっぱり今は

 何より……



 寝たい――

 



STORY13  一目惚れ

 

 



 王国「アポロン」


  さすがに王国というだけあって、街周りは高い城壁に囲まれていて守られてるって感じがする。
 下にはレンガ造りの地面が広がっていてすごく綺麗な街並みだ。
 街の中心にある大きな城には王様が住んでいるとの事。王様なんてまだ居たんだな……
 ってここはオレの住んでた世界じゃないっての。

「な〜に一人で恥ずかしがってんの? 今日はもう寝よ」

「ん、賛成」

「どこにしやすか?」

  軽く周りを見渡してみると、すぐに宿屋は見つかった。
 だって看板に「宿屋」って書いてんだもんな。もうちょっと考えたらどないやねん。
 早速入って部屋を取る。サンがカウンターで店員と話している。
 それをオレとユリは椅子に座ってただ見ていた。

「部屋取れたよー! こっちおいで」

  その台詞を合図に、ユリと同時に立ち上がってサンの方に歩いていった。


「だー! つかれた! 久しぶりの布団だ……」

  部屋に入るなり、電気もつけずにベッドにダイブ。すっげ気持ちいい……

「あー! 窓側私がとろうと思ってたのに!」

  オレを指差しながら叫ぶサン。何考えてんだ……ここは男子用の部屋……

「ん?」

  ベッドが三つありますね。はて、これは一体。

「なぁ」

「なに?」

「ここで寝るの?」

「当たり前じゃない」

「「……」」

  ユリも驚いているようだ。あぁ、そういや初めて泊まった時もそうだったなぁ……

「あ〜あ、窓側取られたんじゃあしかたない。私は真ん中で寝るからね。ユリはドア側でいい?」

「いいっすけど……男二人の真ん中で寝るんすか?」

「うん。信用してるよ。お二人さん」

  あ、それは卑怯だ。それ言われたらなにも出来ないじゃないか。
 まぁもともと何かをする気は無いが……うん。無い。


  ……じゃあいいじゃん。
 本日二度目の赤面。布団をかぶって隠した。

「……おやすみ」

「私も寝よっと。おやすみね」

「おやすみなさいっす」

  サン、ユリ、と寝ていったが、オレはなかなか寝ることが出来なかった。
 ……サンの寝息が聞こえて本日三回目だった。






「さぁ、行くっすよ」

「おう、頑張るか」

「気合入れていこ〜」

  サン曰く、「お金もあるしここはちゃっちゃとスルーしちゃいましょう。早く目的地に着かないといけないし」との事だった。
 次の休憩地点、街まではまた四、五日かかるらしい。
 嫌だなぁ……



「姫様! お待ちください!!」

  遠くから大きな声が聞こえてきた。そしてそれはこっちに向かってきているみたいだ。

「誰が待てといわれて待ちますか!」

  その通りだ。しゃべってる暇があったら走った方が良いと思う。うんうん。
 女の人の言い分を認めた。

 ……姫様?

  ここは王国だから姫様が居てもおかしくないのか。ってことは本物!?

  声のする方、後ろを振り返る。そこには……

  「どきなさい!」

  足があった。

  オレはそれを頭を右にずらして避けた。なんか反射神経よくなったかも。

  そんな事を考えていると、蹴ってきた本人はオレが避けるとは思っていなかったらしく
 全体重が蹴り足にあり、バランスを崩してオレにそのままの勢いで倒れてかかってきた。

「きゃ!」

「うお!」

  天地がひっくり返ったが、なんとか蹴ってきた奴が地面に叩きつけられる事は防げたようだ。
 オレって紳士だな。蹴ってきた奴は女の子……女性だったからな。

「大丈夫ですか?」

  紳士っぽく。

「いたた……大丈夫って、あなたが避けなかったら……!」

  その長い金髪が綺麗な女性はオレの所為にしようとしたらしいが顔を見た瞬間

「……はい。大丈夫です……」

  と急にしおらしくなった。なんだ? オレに惚れたか? ふぅ……かっこよすぎるってのも罪だな……

「助けてくれてありがとうございます。これ、この紙を見せたら城に入れます。
 一度来てください。御礼がしたいので……」

  一枚の紙切れを手渡された。その紙には金箔が貼ってあり、いかにも豪華って感じだ。

「さぁ姫様、帰りましょう。捕まえてくださりありがとうございました」

  さっきこの人を追いかけていた大男が追いついて姫様を捕まえて城の方へと歩いていった。
 なんか騒がしい人達だったな。

「なぁ、サン。お礼貰ってこうぜ」

「ん、そうね。貰えるもんは貰っとかないとね」

  サンはものすごく嬉しそうな顔をしていた。まぁ城に住んでる人からのお礼だもんな。
 期待しちゃうよな。それにもしホントに姫様だったりしたらそりゃもうすごい物が……
 アカン。顔がにやけて……

「さぁ! お城にレッツゴ〜!」

  サンって意外にがめついんだな……






「マースから君達のことは聞いた。このあばれんぼう娘を捕まえてくれたらいいな。礼をいう。
 で、なにか礼をやりたいのだが……何がいいか――」

「うふふ、お父様。あばれんぼうだなんてそんな。おふざけが過ぎますわ」

  ふむ。わざとらしい笑い声で笑っている。
 おもいっきり顔を蹴ろうとしたのにあばれんぼうじゃないなんてそんな。おふざけが過ぎますわ。

「そうそう。それならばお父様、私に提案があります」

「なんだ?」

  あばれんぼう娘……姫様はオレに向かって笑顔を送ると

「私をあの方の嫁にすればいいのです」

  …………

  はぁ?

  サンもユリも王様もさっき姫様を追いかけていた赤髪の大きな男、マースも、何よりオレも口をあけて姫の提案に唖然としていた。

「い……」

  王様が何か言おうとしている。大体予想はつくけど。

「いかぁぁん! 絶対に許さん! お前の婿はこの国で一番強い者と決まっているのだ!」

「ではこうしたらどうでしょう。今からこの国で闘技会を行うのです。そして優勝者には私の婿になってもらうというのは。
 私もそろそろ年頃です。いい時期ではありませんか」

  そんなのに王様が乗るはずが無いだろうに……

  でも今度はオレの予想はあっさりと裏切られた。

「うん。それならいいや」

  子供かお前は。

  またもや姫様がオレに向かって笑顔を送ってきた。

  返事の行動を起こせるはずも無く、そのばにいた全員が、もう何がなんだか分からなくなっていた。



  馬鹿笑いしている王様と、してやったりとくすくす笑っている美しい姫様を除いて……




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