授業中の教室。窓側の席から外を眺めると、新しく入ってきた初めてできた後輩達が、グランドでサッカーをしていた。

  視線を黒板に戻し、何も書いていない事を確認すると、次は廊下側へと顔を向ける。
 隣の席で、頬杖をついて目を瞑っている幼馴染み。机についている肘がずるずると机の端へと滑っていく。
 あっ……あと少しで……

「柴崎。何を授業中に面白そうに見てるんだ?」

「いたっ」

  教科書で頭を叩かれる。

「そんなに余裕なら、この問題。解いてみ」

  めくるのをサボっていた教科書を急いでめくる。え〜と……。あっ、これか。

「……2x+3y−23z+33。ですかね」

「………。稲原、あってるか?」

「えっ! 私ですか! 先生……まだ自分も答え出してない難しい問題を太陽にさせましたね……」

「ん。あってるな。正解だ」

  教室が賑やかになる。そんな中私だけは違うものを見て笑っていた。
 肘が落ちた拍子にしびれるつぼを打ち、腕がしびれて苦しそうだ。必死に声を殺して痛みに耐えている。
 そんなあすにしびれてる腕めがけてパンチを放った。

「ひゃぁっ!!」

  今度は教室中が静かになった。皆の視線があすに集まる。私は一人でくすくすと笑っていた。

「いや、なんでも……ない…です」

  片肘をおさえながら、恥ずかしそうにあすが言う。
 また、皆が笑い出した。あすの視線がちょっと痛いが無視して授業を受けるふりをした。



  授業が終るまで、あすはずっと横目で見てきた。

  「前を向け」と、何回も先生に怒られながらも。






  外伝2 ――太陽の悩み――






「さっきはゴメンよ〜」

  中学校では珍しい、食堂で買った冷たいジュースを首に押し付ける。

「うっわ! ……って、こんにゃろ! さっきは恥じかいただろが!」

「だから謝ってるでしょ〜? はいこれ。お詫びの品でございます」

  さっきのジュースを手渡す。ちゃんとあすの好きなリンゴジュースを買ってきた。

「ん。苦しゅうない。ぬしの心遣い、しかと受け止めたぞよ」

  簡単だなぁ。なんて思うけど、そんなところが……

「なんか馬鹿にしてる顔だな」

「いえいえ、滅相も無い! まぁ、一緒に食べよっか」

  机を挟んで、あすの向かいに座った。作ってきた二人分の弁当の片方をあすに渡して、もう片方のふたを開ける。
 二人で食べるなんて久しぶりだなぁ。

「明日斗! 今日、俺はお前と食いたい気分だ!」

「俺も混ぜろよ〜。友達だろ〜?」

  突然クラスの男子達が集まってきた。いつもバラバラで食べてるのになんで今日に限ってくるのかなぁ……
 ちょっと不機嫌な私。

「お前らなぁ……ほんっと現金だな」

  あすが笑ってる。まぁあすが楽しいならいいとしますかねぇ。

  周りの男子が私ばっかりに話しかけてきたので、結局あすとはそんなに話せなかった。
 やっぱりちょっと不機嫌だ。






  やっと放課後になる。登校と下校は、あすと二人っきりで話せる楽しみな時間。
 先生による、明日の予定の伝達が終り、一斉に立ち上がる。
 「礼」と号令がかけられて皆がぞろぞろと教室から出て行った。
 いつもあすが待っている廊下に向かう。

「あす〜! か〜えろっ……お?」

  あすが女の子と話している。あれは……去年一緒のクラスだった長谷川さんだ。
 何を話してるのかなぁ……。き、気になる……

  ちょっとすると、長谷川さんがペコッと礼をして走っていった。
 あすが周りを見渡し、私と目が合った。小走りであすのもとへ行った。

「何の話してたの?」

「ん〜、内緒だ」

  少し小さめの声で言った。なんだか下を向いてるから聞き取りにくいなぁ……

「え〜? ……まぁいっかぁ。帰ろっ」

「あ〜……わりぃ。今日は先帰っといて。ちょっと用あるからさ」

「え〜!? なんでぇ?」

  えっと……とでも言いそうな顔をして困っている。
 少し考えると理由は分かった。

「……そかぁ。じゃあしかたないか。分かった! 先帰ってるから、ちゃんと考えて返事するんだよ〜」

「おう、分かっ……。ってそんなんじゃない!」

  はいはい。照れ隠しはいいですよ〜。と振り返り笑った。


  家につくとそそくさと部屋に入り、かばんを投げ出してベッドに身を投げる。
 気になる〜〜……

「返事、どうしたんだろなぁ……」

  あすが付き合うのかどうかが気になる……というのとはちょっと違うかなぁ。いや、そうなんだけど。

「ぬあぁぁぁ……何を言ってるんだぁ……」

  馬鹿だ……。校内一の頭を持つ私がなにしてるんだか……
 枕に顔を突っ込んで、バタ足をする。落ち着かない……



「ただいま〜」

  あ、あすだ。帰ってきた。
 階段を上って、ドアを開けて隣の部屋に入る音がした。
 あすの部屋側の壁に向かって喋りかける。

「どう返事したの?」

「あ〜……断った」

「あっそうなの」

「なんだその興味無しって感じの返事はよ〜」

「いえいえ、そんなこと無いですよ。興味津々」

「どうだかっ」

  実際興味津々ですよ。そしてとっても安心してますとも。はぁ……良かった。

「ねぇ、あすって誰が好きなの?」

「っ馬鹿やろ! びびるなぁ。突然言うなよぉ。いないって前も言ったろ?」

「ん〜、そうなんだけどさ。できたかな〜って。最近ある女子から結構ラブコールされてるじゃん?」

「ん? そんなのいないって。いっつも話しかけてくる女子って言えば太陽じゃんか」

「……そうだよね」

「そうだ」

  馬鹿だ……。馬鹿としか言いようが無い。そこまで言ったなら気づけよ! おい! って感じだ。
 はぁ……。と溜息をついてまたベッドに倒れる。その日はそれから一回も話さなかった。





「「いってきま〜す」」

  いつも通り二人で家を出る。

  少し歩いてからあすが言ってきた。

「ちょっと考えたんだけどさ、もしかしてラブコールしてんのって、太陽?」

「違うよっ!」

  思わず言ってしまった。否定する自分が悲しい……

「そんな怒るなよ〜。冗談だって。さ、行こうぜ」

  しかも冗談かよ……。私って一体……

  でも! 今は幼馴染みだけど、いつか絶対あすを振り向かせる! ってか。
 ちょっと言ってて恥かしいなぁ……

「さっ、行こっか」

「ん」

  コクッといつものように頷くあすといつもの通学路を並んで歩く。
 今はただ並んで歩いてるだけだけど、いつかは手をつないでみたいなぁ。



「はぁ〜……誰かオレの事好きな人とかいないのかなぁ……」






  道は険しそうだ……

 

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