「ほらー、早く起きなヨー。今日はマコトが当番だヨー?」

  体の上、みぞおちの辺りに重みを感じる。

  薄く目を開けると、そこには見覚えのありすぎる女の子が一人体の上に座っていた。

  子供が親を起こす感じに似ている。

  あー、昔漫画とかで幼馴染の女の子が朝起こしに来るなんてのを見て、羨ましく思ったこともあったが……

「あのな、上に乗ったら起きようにも起きれないだろが」

  オー、と本当に今分かったのだろうか、大きく一度頷いて立ち上がってくれた。

  俺の体の上に。

「わざとだ。絶対わざとだろ」

  意味が分かっていないのか、それに、大きく一度頷く。

  ということで。

「Doloroso!」

  こうして俺の一日が始まった。

 

 

 

 

 

  かていM  近頃は

 

 

 

 

 

「先輩ー。お弁当まだですかー。玉子焼きは甘くないとイヤですよー?」

「豊。パルメザンチーズを取ってくれ」

「えーと……あ、ふりかけチーズですね。はいどうぞ」

「お次に貸してネー」

「なんやねんこの玉子焼き! あっま! え、まっず!」

  キッチン、というか台所、と言ったほうがしっくりくる場所で汗水垂らしながら6人分の飯を作る。

  当番制だから文句は言うまい。

  でも、だ。

  何でいつも俺の時だけは誰もヘルプに来んのだ、こら。

「文句を言うなら食うな」

「まずくても出されたのなら食べるのが礼儀ってもんや。うちはちゃーんと食いますで。このあっまい玉子焼きを」

  この、にっくたらしい関西弁で話すのが、星野 佳織。

「それじゃあ、これからは失敗した料理は全部佳織に食わせるとするか」

  と、俺が言おうとしたことをそのまま言ってくれた男が、手塚 益実。

  この二人が、この家に無断で住んでいたやつらだ。

 

  そう、俺たちは、六人でこの家に暮らし始めたのだ。

  この奇妙な生活が始まって――俺の当番が二回目だから8日目になる。

  なんだかんだでこいつらは異常とも思えるほどの速さで馴染んでいった。

――もちろん、オレを除いて、なわけだが。

  っても、そんなの関係無しに、他の奴からは俺に対して馴れ馴れしい態度を取ってくるけどな……

「先輩ー。さすがに弁当箱にはミネストローネは入らないと思います」

「あほやー! こいつあほやー!」

  リュンヌなら、パルメザンチーズをかければこいつも食ってくれるんだろうか。

 

 

 

 

「「いってきまーす」」

  手塚と西村がそろって玄関を出て行く。

  こいつらはまだ学校、というところにお世話になるお年頃なのだ。

  高校が義務教育化されて、学費も昔に比べれば安くなり、習うべきことも6年間で習い切ればいいので楽にはなった。
 だが、家庭の経済事情が苦しい者にとっては、やはり働き手が欲しいことには変わりなく、高校に通わせないで働かせるところも少なくは無い。
 そうなるといつまでも高校が卒業できず、結局就職も出来ずになってしまうという新しい社会問題も発生してしまった。

  そして、ここにいる西村もその犠牲者の一人だった。

 

 

 

  さて、飯の片付けも終わったし。

  次は掃除だな。

「ほら、星野。手塚のおっさん。今日の掃除は俺らでする日だろうが」

「えー、まだ綺麗やし、せんでもええんちゃうん?」

「そうだな、とりあえずこのわがままな関西娘を片付けることからはじめようか」

  どっこいしょと立ち上がって彼女の足を掴む。それを見て俺も彼女の腕を掴んだ。
 大の男が女を一人持ち上げるのは簡単なことで、意外なほどに星野は簡単に宙に浮いた。

「ちょ、冗談やん! おちゃめやん! 勘弁してぇな!」

  その時俺たちは縁側から庭に向けて1、2と数えながら体をブランコのように揺すっているところだった。
 後ワンカウントで捨てれるところだっただけに少し惜しい。

「さ、それじゃ俺は二階の掃除するから、あんたらは一階を頼むわ」

  そう言って俺は二人に背を向けて階段へと向かった。
 やはり何だかんだ言って、俺は馴れ合うのが苦手だ。というか好きじゃない。

  

  二階に行くと、リュンヌが自分の部屋――リュンヌは豊と相部屋になっている――で何かをしているのが見えた。

  何をしているのか少し気にはなったが、少しでも気になってしまった自分に嫌気が差したので、そのまま自分の部屋の掃除から始めることにした。

  他人と関わるのはやめよう。

  他人に頼るのはやめよう。

  一人では生きていけないなんてのはウソ。

  人間は意外に強い。

  今まで、俺は一人で生きてこれたんだ。

  これからも、そうやって生きていければそれでいい。

 

  そう思って生きてきたのに、少しこうやって他人と寝食を共にするだけで変わってしまった自分が信じられない。

  他人を信じない上に、自分さえ信じられなくなってしまったら、一体何を信じればいいんだろう。

  敷いたままの布団に体を預ける。

  朝乗っかってきたリュンヌとは違う、心地よい体のダルさに身を任せる。

 

  あー……掃除しないと……な――……

 

 

 

 

 

 

  起きた時、俺の体は庭に捨てられていた。

 

  よし、とりあえず関西娘から始末していこう。

 

 

 

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