目の前の二人は互いに顔を合わせている。
まぁ、明らかに焦っている様子なのはオレから見てもわかる。
不法侵入者なんだからしかたがない。
さて、どう出てくるのか。楽しみだ。
かていK 手塚=豊
「なに言ってんの! うちらが住んでる家に、あんたらが入ってきたんやんか!」
後ろに隠れていた女性が口を開いた。
ケンカ腰な口調な割りに、態度としては男の背から顔だけを出すというへっぴり腰だ。
ってか、関西弁を生で初めて聞いた。
まぁ、言ってることは間違っていない。
が、
「そうだな。お前たちが住んでる『この子』の家に、オレ達が入ってきたんだな。うん」
……なんだかこうやってじわじわ追い詰めるのって面白いな。
女のほうはさっきのオレの台詞で完全に沈黙。
男のほうはバッドを握る手を緩める事は無いが、口を開く事は止めたみたいだ。
両者共に諦めの色が見え始める。
電気がついていないから上手く顔が見えないのが残念だが、多分二人とも汗でべとべとなんじゃないだろうか。
「さ、邪魔者はほっといて、手塚、案内してくれよ」
と、今まであっけに取られて後ろに立ち尽くしていた家主に声をかける。
彼はやっと事情を飲み込めたのか、数瞬してから、はいと元気良く返事をした。
「……手塚?」
と、手塚を連れて奥に行こうとしたオレ達に、前に立っていた男がその名前を反復した。
「ん?」
気にはなったのでちょっと訊いてみることにする。
すると男はそんなオレを無視して手塚に歩み寄った。
「手塚……豊?」
「え……はい。そうですけど……どこかでお会いしましたか?」
どうやら男のほうは豊の事を知っているみたいだ。
でも豊は男の事を知らない。小さい頃に会ったことでもあるんだろうか?
でもまぁそんなことはどうでも良い。
問題は、知り合いであればこの家に暮らしていてもおかしくは無い事になってしまうかもしれないことだ。
……自分で言って、少し混乱してしまった。
知り合いなら、家の鍵を持っていてもおかしくは無い状況もありえ、そしてそれはこいつらが本当の家主という事にもなりえる。
……むしろ、手塚の境遇を考えればそっちの方が確率が高いかもしれない。
なにせ、こいつは……
ん、止めよう。これを考えるのは彼に失礼ってものだ。
「いや、なんでもない。昔、君に会った事があるんだが、君が俺を知らないのは無理ないことだよ」
やはり、知り合いだったみたいだ。
どうしたものか……
「というコトは……」
と独り言を呟いて、オレ等全員を見渡す。
一人一人と目が合うたびに彼は目を丸くし、そして頷いた。
オレとも目を合わして、微笑んでみたり。
そして最後にリュンヌと目が合ったとき、彼は少し、寂しそうな目をしていたような気がしてしまった。
何故かは分からない。
彼が寂しそうな目をしていた理由も。
――彼の目が、寂しそうな目と思ってしまった自分自身も。
「そうか……いや、参った。この家は間違いなく豊。お前のもんだ」
「え? あ、はい。そうですよ?」
ん? 拍子抜け、というか。
意外にも彼はこの家の所有権を持つのが手塚だと認めた。
身内という事を利用してもっと粘ってくるかと思ったが……。
まぁいい。
これで一件落着なんだ。
「さ、入ろうぜ。んで、知り合いさん達。家主さんが帰ってきちゃったんだし、ま、出ていってくれや」
彼らの横を通り過ぎる。
みんな着いてきてるもんだと思ったが、床が軋む音はオレ一人分しか聞こえない。
どうしたもんかと振り返ろうか、振り返らずそのまま行くか、迷っていたのだが。
「そうだ! 皆さん! 一緒に住みませんか!?」
迷う間もなく、問答無用で振り返らせられた。
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