手塚豊が駆けてゆく。
その後ろを追いかけて走っていくリュンヌ。
さらに後ろを西村が早歩きで。
んでもってそれを眺められる位置に、両手に買い物袋をぶら下げたオレが。
少しずつ晴れていく空に目を細めながら、これから始まる新しい生活に胸を躍らせていたのはオレだけじゃないはずだ。
太陽が隙間から顔を覗かせる。
その光がオレ達だけを照らしてるように見えたのは……恥かしいから黙っておいたんだ。
かていJ 不法侵入者、2人
「ここです! ここが僕の家です!」
ビシッ! と向けられた左手をたどって目線をずらしていく。
そこには、予想していたようなボロいアパートや、半壊した家などではなく
小さいながら庭もあり、二階建て、見たところ屋根裏もありそうな、立派な1900年代の『一戸建て』だった。
「ここに……住むのか? お前が?」
目線をそれから離せずに、手塚に言葉だけ向けてみる。
それに気づいた彼はやはり敬語で。
「はい! 僕
言って、ちょっと照れた彼を横目に、オレは他二名の反応が気になった。
ちらりと横目で見たリュンヌは、この家のすごさが分かっていないのか、日本だったらこういうもんだろう、とでも思っているのか。
西村は……まぁ、概ねオレと同じ反応だったがオレよりは衝撃も喜びも大きいのは確かだろう。
なにせ、ホームレス人生がオレ達の比にならないんだから。
「いや……すごいな……」
しみじみと。
黒瓦が敷かれた屋根が静かに光る。
その光に、眩しくもないのに目を細めたりして。
「さぁ、入りましょう!」
どれほどこうして呆けていたのか。
不意にかけられた声に少し驚きながらオレは顔を下に戻す。
「入ろう入ろう! 早く! 一刻も早く!」
西村がはしゃぐ。
オレとリュンヌはそれを無視して頷いて、手塚、西村と続いて門をくぐった。
手塚が扉に手をかける。
「あ、カギ開けなきゃ……」
と、ポケットに手を突っ込んで取り出す。
取り出したそれを穴に差し込んでくるりと回すのだが、その時間がいじらしい。
特に時間がかかってるわけではないのだが、それでも少しうずうずしてしまった。
「開いた開いた。では! おじゃまし……あ、違った。ただいまー」
一人先に入り、横に開くガラス戸に片手を置きながらこちらを向いて。
「そして、おかえりなさい。ここが僕らの家です!」
にこっと笑う笑顔がまた可愛らしい。
「わーい! おうちだおうちだ! 屋根がある! 壁がある! 電気がある!」
壁が硬いよー! なんて盛り上がっている西村さんは置いておいて、リュンヌはなんだかんだで感動しているみたいだ。
まぁ日本に来ていきなりホームレス生活なんて、普通に考えればそんなことありえる話じゃないからな。
「すごいナー! これがブケ言うものなんだナー」
ブケ……? ぶけ。 無……毛……。
違うだろ。
武家。
こうか。
「いや、それも違うだろ」
「Doloroso!」
とまぁそんなこんなで家へと全員が入る。
靴を脱ぎ入ってみれば、中も意外と綺麗だ。
……綺麗、すぎやしないか?
足を擦ってみれば、ホコリが付くどころかよく磨かれている。
目を凝らしてみれば、舞うホコリは無く、光が綺麗に差し込んでいる。
今現在誰かが住んでいるというのならこれも納得がいくが。
ここまでの手塚との会話でこの家はずっと使われていないということを聞いていた。
――これは、一体……
「誰だ! こんな真昼に堂々と家に入り込んで! 出て行け!」
と、突然家の奥から。
反射的にみんなが身を縮こませながら、その方角へと顔を向ける。
そこにはバッドを両手で握り締めながらこちらを威嚇している男。
……と、その後ろに一人女の人が。
……まぁ普通ならビビって謝ってさよならー、ってな感じだろうが。
こっちは生憎家主がいる。
鍵が合って開いたんだからこの家であることは間違いない。
となると、今、オレの目の前にいるこの二人こそがこんな真昼に堂々と家に入り込んでいる、出て行くべき奴ら、となる。
そこまで確認すると不安は一切無くなり、義はこちらにありと言い切ってみる。
「なぁ、お前らだろ。不法侵入者」
そん時の二人の顔。
いや、面白いとしか言いようが無かったのを覚えている。
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