季節はもう7月の下旬。夏の真っ盛りの中のかったるい授業がやっと終った。
午後3時半、教室の掃除もさっさとすませていざ部活へ行こうとした時、
オレはクラスメイトの秋英に呼び止められた。秋英はオレの肩を軽く叩いてこう言った。

「なぁ、お前女の子紹介して欲しくないか?」

『いきなり何言い出すんだこいつは…』

 オレがそんな事を考えていると、秋英は続けて口を開いた。

「俺の知り合いが誰か紹介してって言ってんだよ。お前どう?」

 秋英の顔はこっちを見てニコニコと笑っている。

「そんなもんいらね」

 オレがそう言うと秋英は一瞬驚いた様な表情を見せ、腕を組んで納得いかないとでも言いたげな顔をして言った。

「何でだよ? 結構良いと思うけどなぁ…」

 秋英がブツブツと文句を言い出したので、オレは秋英を説得する事にした。

「紹介なんてどうせろくな事ねぇんだよ。こういうのはちょっとメールしたらすぐ終わっちゃうんだ。
 どうせこの人だってそうなんだよ。Do you understand?」

 ちょっとカッコつけて英語を使ってみたが、秋英はオレの言葉を聞いて何か考え込んでいるらしく、全く無視。
その後も数十秒考え込んだあとわかった、とニヤリと不気味な薄ら笑いを浮かべて帰って行った。
まぁ、あいつがちょっと変わった奴なのは前から知ってたし、とりあえずほっとこう…。

 あ、そういえば自己紹介がまだだったかな?
まずオレの名前は加地 羽遊馬(かじ はゆま)。高校2年生の現役サッカー部だ。(夢はでっかく全国制覇!!)
で、今オレと喋ってたのが栗橋 秋英(くりはし あきひで)。こいつは部活はせずに毎日楽しい日々を送ってるらしい…。
秋英とは2年になってからの付き合いだけど、イイ奴だ。
今じゃ親友と呼ぶ事に全く抵抗を感じなくなってる。

 まぁ自己紹介はこの辺にして、そろそろ部活に行くとしますかぁ。
何たってすでに部活は始まっちゃってますから…。こりゃボールひろいさせられるなぁ…。

 



 午後7時過ぎ、部活でヘトヘトになりながら家に帰った。

「ただいま〜」

 台所にいる親に聞こえてるのか聞こえてないのか、確認もせずに風呂場へ直行。
シャワーを浴びて汗を流してから自分の部屋へ行き、オレは疲れきった体をベッドへ投げ出した。
…と同時に携帯電話が鳴った。着メロが切れるタイミングからしてメールだろう。
ビックリしたオレは急いで携帯電話を取ろうとしたけど、疲れのせいか体が思うように動かない。

「まぁいいや。今日はもう寝よ……」

 そう言い終わった時にはオレはすでに眠っていた。…のだろう。何しろその後の記憶が全くないんだから…。





「いってきま〜す」

 次の日の午前8時13分。オレはいつも通り遅刻ぎりぎりの時間に家を出た。走ればもっと早く着くんだろうけど、
朝っぱらから運動というのもオレのポリシーに反する行為なので、決して走ろうとは思わない。
まぁただ単に人一倍汗っかきだから、ってだけなんだけどね…。

 そして8時28分、いつも通りの時間に学校に着くと、
秋英が訪問販売に来る人のような、いわゆる《営業スマイル》でこっちに向かって歩いてきた。

「昨日どうだった?」

 と嬉しそうに聞いてくる。

「……はぁ…?」

 オレは何の事かさっぱりわからず、とりあえず昨日の行動をおさらいしてみた。

「昨日、部活行って家帰ってシャワー浴びて…、それからベッドで横になった瞬間メールがきて…」

「…そのメール見た?」

「いや、昨日は疲れてたし…」

「いやいや見ろよ! せっかくの俺の努力の賜物を…。」

 秋英のこのいかにも悔しそうな発言で、ようやくオレはだいたいの状況を理解する事が出来た。

「お前もしかして、オレのアドレス教えたのか…?」

「うん。」

 秋英はこの上ない笑顔で答えた。しかも即答かよ…。
オレは携帯のメールをチェックしてみた。

「受信メール1件…」

 確かにメールが来ていた。でもオレはそのメールを見る気にはならなかった。
正確には見たくなかったって言うのが正しいんだろうな…。
なのに秋英が早く見ろって急かすもんだから、オレは仕方なくメールを見てみた。

『はじめまして。荒川雪菜(あらかわ ゆきな)って言います。』

 雪菜? この名前、嫌いじゃないなぁ…。
いやいや駄目だ! オレは紹介でメールしないんだ。
紹介なんてロクな事がないことぐらいオレだってわかってるんだ。

「メール、返してやれよ」

 秋英はまだニコニコしていて、さらに言葉を付け加える。

「そいつは良い奴だから安心しろって。たまには冒険してみろよ」

 オレは冒険なんてする気はさらさら無いんだけど、メールを返さないというのは失礼な気もするし、
せめてメールだけは返しとこう。

『どうも。悪いけどオレ、紹介とかでメールする気ないんで』

 無愛想にしてれば向こうも嫌になるだろ。
送信ボタンを押す。

「よし、これで一件落着だな」

 そう思った。でもこの考えが甘かったんだな…。
授業が終わって携帯を見るとメールが来ていたからだ。何だか嫌な予感がするぞ…。

『何でメールしないの? たまには冒険してみたら?』

 やっぱりあの子だ。しかも言ってることが秋英と同じだ。

『何でって、紹介なんて何も良い事ないからだよ』

『そんなことないと思うよ? とりあえずメールしてみようよ?』

 なんて聞き分けの悪い奴なんだ…。オレはメールしないって言ってるだろ。

  …でも、待てよ?

 ……やっちまった…。よく考えたらこれもメールしてる事になってるんだよな…。
もう駄目だ。もう逃げられない。オレはなんて馬鹿な事をしたんだ。
そんな事を考えていると一通のメールが。秋英からだ。

『大丈夫だって』

 …何が『大丈夫』なのかさっぱりわからない。
結局オレ、この《雪菜さん》とメールする羽目になってるし…。もうどうにでもなれ!
今はそう叫んでやりたい気分だ…。

 夏休みになれば部活の合宿も始まるってのに勘弁して欲しいよ…。

 

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