近所に高い木があり、夏になると遊び場になった。

 丁度良い枝振りはボクらの背丈にぴったりで、そこから高くのぼることが出来た。でも、ボクは彼らが遊んでいるのを、そっと下から覗く。

楽しそうな笑顔に、楽しそうな笑い声、手招く声も聞こえるが、ボクは高所が怖くはないがロマンチックでもない昼間の木に、登る気にはなれなかった。アイツはダメなんだと知ると、その子は残念そうに上を向いた。

 昼が過ぎて日が地面に近くなると、みんな親の待つ家へと帰るので、笑い声が消えて静かになる。

ボクのような静かに生きる者に用意された時間が訪れると、ボクはそっと木に登った。暗くなっても家に帰らないのは、両親の帰りを待つからだ。

毎日登っているので、暗がりの中でも手に取るように枝の位置がわかるのだった。頭の中で描かれた模式図に従い、頂上を目指すと寸分違わずに頭が頂上の枝の隙間から突き出る。遠く見渡し、豆より小さく見える両親の帰りを少し早く知る。

 

 暗くなったので、木に登ろうとすると一人ポツンと由香ちゃんがいた。

遊びのグループでのヒロインなのが由香ちゃんというわけで、いつも柑橘系の香りを漂わせて、後ろで束ねた髪の毛がとても可愛い。そして、由香ちゃんという固有名詞にボクのハートは少し暖かになる。

どうしたのと聞くと、今日は門限が少し遅いの、ということだった。木に登るの? と聞き帰ってくる。その通りだ、と返すと、心配そうな顔で、暗いからダメよ、と言った。ボクが昼間、木に登らないから、登れないと思っているのだろう。

「よるになって登ったらダメって、お母さんが言っていたわ」

 ボクが手を木から離し、由香ちゃんの話に耳を傾けた。

「つい最近ここで首を吊って二人死んだらしいの、だから幽霊が出るってことよ」

 よほど怖いことが苦手らしく、由香ちゃんの手は震えていた。ちょっと可哀想であるが、そんな仕草がたまらなく可愛かった。そして、ボクは木に手をかけなおした。

「呪われないさ。だって、死んだのはボクの両親だもん。今頃はボクを見守っているんだ」

 そう言うと途端に、由香ちゃんは俯き、足もガタガタと音を立てはじめた。ウソだよ。ネタと張らしても、あまりのショックに冗談では済まなくなっていた。グーで胸をポカポカと叩かれて、そしてボクの服が由香ちゃんの涙で濡れた。

ごめんと言っても、いつまでもやめることはなかった。ボクも強く抱きしめると、頭を胸に付けた由香ちゃんは指をさした。指先にはボクの両親が立っていた。

 両親がボクの帰りが遅くて迎えに来たのか、コミュニティーの外からそっとボクらを見ていた。幽霊でなくてホッとした。大丈夫だよ。と言っても由香ちゃんはそのままだった。

ふと、胸元をのぞき込むと由香ちゃんの顔は血の気もなく、首筋からにじみ出る青白い光が、ボクの首筋に冷たく働きかけた。

 木を見ると、ボクと由香ちゃんは手をつないでぶら下がっていた。


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