非常識な舞台



朝、気持ちよく起きることが出来た三原は着替えて食堂へ向かった。知っている人もいるだろうが、
食堂は士官と兵士で分かれている。士官は勿論綺麗な場所、兵士は・・・・。
 三原は士官側の食堂で食べていると、兵士側の人間が話しているのを小耳にはさんだ。
「今朝、警備に回っていた奴が急にいなくなったらしいぞ。」
「それも噂だろ?絶対無いって。またスパイか?」
「でも、いなくなっていたのは本当らしい。ほら、あの市川っていう気の弱い奴がいただろ、あいつだって。」
「本当かよ!脱走か?」
「よくわからないけど、まあそう言うことかな。」
「訓練きついからな〜。」
「とりあえず、そうらしい。」
 三原は少し気になったが、昨夜のこととは無関係だと思った。朝食を食べた後、
一度幹部だけの集会があった。内容は市川の失踪と、今日の訓練内容だった。
市川のことは少しだけ触れたが、すぐに訓練内容へと移った。今日の訓練も大変そうだ。
 急に警報がなった。全員驚いてイスから落ちるものもいた。スピーカから連絡が流された。
『失踪したと思われていた市川予備兵がロッカーの中より遺体で発見されました。繰り返します・・・・』
 幹部たちがざわめき出した時、幕僚長が会議室に入ってきた。
「全員緊急配備!直ちに武装し、警戒にあたれ!」
「了解!」
 皆が立ち上がり、急ぎ足で部屋から出て行く。三原も続こうとした時、幕僚著に呼び止められた。
「三原・・・・。」
「はい、なんでしょうか。」
「現場の指揮はお前に任せる。もしかすると本当に昨日のこと現実になったかも知れん。」
「元部下の起こしたことはは上司の責任でもあります。私が責任もって処理させていだだきます。」
「任せた・・・。」
幕僚長の声の力は完全に抜けていた。これ以上何もいわずに部屋を後にした。
 三原は制御管理室へと急いだ。
「三原ニ佐!指示の方を!」
 とは言われてもそうすぐに指示が出せるわけではない。取り合えず、監視兵の増員を要請した。
「増員した兵は、スパイの捜索をしろ!」
「スパイですか!そんな奴が!」
「わからんが、とりあえず探せ!仲間にまぎれているかも知れんから、顔をしっかり調べろ。」
 捜索が始まってから五分ほどで、不審者を発見したと無線が入る。
「よし、そいつを拿捕しろ!間違っても殺すんじゃねーぞ!」
「了解!」
「おい、そいつはどこで見つけた。」
「今は、外の倉庫周辺にいます。エネミー(敵、スパイの事)は銃を持っています。拿捕は困難かと。」
「ばかやろう、殺さなければいいんだ。」
「了解。」
 銃撃戦に持ち込まれる可能性が高いだろうと、予測していた。何回も無線連絡は入るが発砲した
連絡は入っていない。ただエネミーは逃げ回るだけだった。しかも、所々でわざと見つかるように。
普通なら見過ごしていくのを待つのだが、変な話だ。見失う連絡も入るのだが、必ず発見される。そして逃げ回る。
逃走経路はどんどんと建物から離れていっている。三原は気付いた。
「そいつはデコイ(偽者)だ!もう一人建物の中に入ってくるはずだ。手薄にするなよ!」
三原の勘は的中した。建物の入り口から入ってくる不審者をカメラが捕らえたが、すぐにカメラが破壊された。
「堂々と入り口から入ってくるとは。よし、館内にいる監視兵は食堂へ行け!」
制御管理室にいた一人が、三原に尋ねた。
「集めるなら、入り口付近の方がいいんじゃないですか?向かう途中に出くわす可能性もあります。」
「だな。だがな、奴らは俺らより上手(うわて)だ。必ず裏をついてくるはずだ。それに、食堂方面の通路は
監視カメラが少なく路が狭い。普通なら、食堂なんかへ敵が逃げるなんて思わ無いだろう。奴らはきっと館内の
情報を知らされているに違いない。」
「なぜ、そう思うのですか?」
「元隊員に工作員がいたんだよ。」
制御管理室の人間全てが驚いた。
「まさか、本当にスパイがいたなんて。」
「そんなことは、終わってからあいつらに聞けばいいだろう!」
 段段と、三原の機嫌が変わっていた。真井の手先だと思うと腹立くなっていた。
グチグチと恨み辛みをつぶやいていると、無線が入ってきた。
「食堂にエネミーが現れました。今から取り押さえます。OVER。」
「よくやった、此処からが正念場だ。犠牲者を出すなよ。」
 五分後、犠牲者無くスパイを拿捕した。後ろで手錠をし、そのまま牢屋の中へ入れた。
三原は一息ついた後、そのスパイの捕まえられている部屋へ向かった。
 男の顔は、悠然としていた。三原の姿を見るとクスっとわらった
「俺みて笑った奴は初めてだ。嬉しいか、おれに捕まえてもらって。」
「あんたがあの三原二佐か。話はよく聞いているよ。もう一人は捕まえられたのか?」
三原も少しだけ微笑みながら首を横に振った。
「二頭追うものは一頭も得ずって言うだろ。お前を捕まえられればそれでいい。」
男もまた微笑んだ。
「やっぱりあんたは本物の軍人だな。」
「俺は軍人ではない、ただの自衛隊員だ。」
「そうかいそうか。それで、俺に何か用かな?」
「真井は今どこにいる。第一何故自衛隊に潜入する必要があるんだ。」
「あんた、本当に何も聞いていないだな。普通簡単にあんたの質問なんかに答えられるかよ。
まぁ、一ついえることはあんたの探している”あの人”はこの国にはいない。それに真井なんて名前でもないさ。」
 三原は色々とその場で考えたが、途中で面倒臭くなったので、この男から聞き出すことにした。
「今日は此処でゆっくりと休むんだな。頭を冷やせば話す気にもなるだろう?」
「冷やせるかどうかだよな、問題は。へっ、こんなに俺の警備をさせていていいのか?」
「お前はスパイだ。うまい事脱走するかもしれないし、それくらいの用心はかまわないだろ。」
「あんた後悔するぜ。」
この台詞に異常さを感じた。予言されたような気がしていたからだ。だが予言など信じる彼ではなかった。
そのままその場を立ち去った。
 牢屋がある部屋は地下にあり、上に上がるには階段を上らなくてはならなかった。その階段を上りきったとき、
後ろで大きな爆発音がした。煙がすぐ上り詰めてきて、階段を下りれなくなった。少し待ってから、階段を一気に
駆け下りた。そこには無残にも、警備にあたっていた兵士全員が焼死体になっていた。勿論拿捕した男も
同様だった。救急班を緊急で呼びつけ、死体を回収させた。
 彼の心の中で大きな傷になる出来事が起こってしまった。予感を信じていればよかった。今になって後悔しているが、
後の祭りだった。目から涙は流れず、唇を噛み切っていた。
真井が作ったものかは分からないが、三原を巻き込んだこのストーリーの最後は予想する事が出来なかった。


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