国家と軍備



   隣国との外交が今ひとつうまくいかない時代の日本の、

専守防衛を貫く軍事力は、弱々しいものだった。

国家の最高責任者の内閣総理大臣は軍備の拡張はない意向だった。

 もし日本が戦争に巻き込まれたり、宣戦布告されたりしたならば、一体どう防ぐのであろうか。学生の頭脳では今ひとつ想像できない。

 こんな時代に、自衛隊員「三原徹(28)」が勤務していた。配属は航空で階級は二等空佐(以下二佐)分かりにくい人は中佐といえば分かっていただけるだろうか。とにかく彼は出世街道を進む好青年だった。

 彼は人を疑うことが出来ない人間で、だまされやすいタイプだった。

だが、まじめで仕事はノルマ以上の成果を出すエリートだった。そんな性格を買われ、

中佐まで上り詰めた。

 今、日本全国の自衛隊に変な噂が出回っている。この自衛隊にスパイが忍び込んだ

という噂だった。九割の隊員がでまかせと無視している。だがマスメディアが

放っておくわけ無かった。日本に国家機密の軍備が配置されているとか、東京の地下で

は実は核兵器が開発されているなどが報道された。

 ある日、某自衛隊本部に防衛庁長官の下、自衛隊幹部(陸海空の将から三尉まで)

が集められた。その中には勿論三原二佐もいた。

「今、日本では自衛隊員の中にスパイがいる噂が出回っているが、こんな事は一切ありえない。わが日本において、自衛隊に国家機密の軍備が敷かれているはずが無い。マスメディアが作り上げたでっち上げだ。」と、国防長官は苛立ちを隠せなかった。

 すると、幕僚長(外国では大将の位置付けであり、陸・海・空将が、統合幕僚会議議長および各隊の幕僚長に就いた場合の階級。

統幕議長は、調整機関である統合幕僚会議の議長で、陸・海・空が持ち回りで就任する。

幕僚長は制服組の各自衛隊を統括するトップ。)が

「それでは我々自衛官は国民の非難をどう回避するのですか!」こちらも同じであった。

幕僚長と国防長官の討論が始まった。三原二佐を含む一佐以下の隊員はすでに聞きに入っていた。

 三原の部下の一人が、

「国防長官は、何か隠し事しているような感じがしませんか。」

 と、疑いをかけてきた。

「まあ、毎度のことだからね。」

自衛隊に働いていたりすると、自衛隊は軍隊だから排除しろとか、税金で生活しているのに何も出来ないのじゃただの税金泥棒だとかのクレームが飛んでくる。マスメディアの人間達は自衛隊をカモにしているようだった。

「毎度のことですが、スパイ容疑は初めてですよ。もし本格的に捜索に乗り出すようなことになれば、誰か必ず犠牲者が出ますよ。」

「でもまぁ、国防長官が無いといっているんだ。俺たちは信じることぐらいしか出来ないんだよ。」

部下は不満を残したが、上司の言うことには逆らえなかった。三原二佐も同じであった。

 幕僚長と国防長の小競り合いに終止符が打たれた。結果、記者会見を開いて事実無根を伝えることにした。メディアがこんなことで納得してもらえるとは誰も思っていなかっただろう。だが、このニュースは記者会見を期にはたりと消えてしまった。






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