『この世には二種類の巫女がいる。
極端に短命な者と、極端に長寿な者だ』

霊夢は自分の事をどっちだと思っていたのだろう。

今となっては分からないこと。

だけど、きっと彼女なら、こう言ったのだと思う。

――あんたよりは先に死ぬわよ。

なんて、迷惑そうな顔で。







『あやめ色の夢』







異変も無く、参拝客も無く、珍しく鬼も魔法使いも居なかった。
雨でも無く、風も無く、珍しくは無く掃除をしていただけだった。

そこに、赤ん坊を見つけるまでは。

「――そう、もうそんな時期なのね」

私は独りごちて、それを抱えあげた。
もれそうになる溜息を飲み込んで、

「はじめまして、新しい巫女さん。これから宜しくね」

私は、自分に時が迫っている事を知らされた。




どこから聞いたのか、それからは毎日がお祭り騒ぎだった。
もちろん本当に祭りをしたわけじゃない。
ただ、沢山の人が集まり、一つの事に一生懸命になったというだけ。


「咲夜、きっとお腹が空いているのよ。早く入れたての紅茶を持ってきて頂戴」

「馬鹿、そんなの飲めるわけ無いだろ。しっかり冷ましてからだぜ」



「おしめ……って、ここには無いのですね……。幻想郷では何を巻くのですか?」

「取りあえず霊夢のここ(腕の部分)とかしっくりきそうな気がするよ」



面倒な異変が起きてはそれを解決するだけの日々。
それだけだったのに、何故か私の周りにはこうも人……では無い者も多いが集まってきた。

紫には、他人に興味を持つなと教わった。
それは私にとってとても楽な教えだった。

興味を持つから期待する。期待をするから裏切られる。裏切られるから失望する。そして失望の中で死んでいく。

そんな一生を遂げる気はさらさら無かった。

だから私は興味を持たなかった。

なのに。

こいつらと来たら、お構い無しに突っかかってきて知り合い面してずかずかと私のスペースの中に入ってくる。

忙しい日々、面倒な時間。

私は先代のような博麗の巫女にはなれなかった。
まぁ元々特にやる気があったわけでも無い。
ただ、自分のペースで進めたかっただけ。

だって……

誰だって、自分がいつか、「そう」なるだなんて、信じてないんだもの。

そして、それはもちろん、私もそうだった。


博麗大結界を維持するための存在。
異変解決をして、それを生業とする、そんな博麗の巫女。

大層な名前を貰ってはいるが、結局私は霊夢というただの人間。
もちろん多少なり、他の人間よりは優れていると自負している。
でも、やっぱり人間なのだ。
博麗大結界なんて計り知れないものを維持する力を常に使っているのに。
だから、そんな状態の日々を、普通の人と同じような生活を、普通の人と同じような長さを、過ごせるだなんて、思い上がりもいいとこだった。

「ねぇ、紫」

「何かしら」

「この子が何歳になるまで、私はここに居ることが許されるのかしら」








「10歳ね」

「えぇ、早いものね……」

縁側に腰かけ、隣には紫。

夕陽が目に少しだけ痛い。
それから逃れるように視線をずっと手前に持ってくると、そこには10歳になったあの子と、魔理沙が遊んでいる。

「霊夢ー、蹴鞠ちょーだーい」

元気良く手を振りながら、大声を出して私の名前を呼ぶあの子。
そんな大声出さなくても聞こえているのに、なんて少し顔が崩れた。

私は抱えていた蹴鞠を軽く投げて、振っていた手へとそれを当ててやった。

「まだまだ衰えてないわね」

「陰陽玉はもっと重いでしょうに」

魔理沙達は早速蹴鞠で遊び始めている。
やはり眩しい夕陽に目を閉じると、
歩き始めた時、初めて喋った時、一人で服を着た時。
色んな場面がついこの前の様に思い返される。
あぁ、歳を取るってこういうことね、なんて苦笑いを止めることもせず、私は思い出を探し続けた。
一人で買い物に行かせた時、妖怪退治の練習をした時、武芸の特訓をした時……

――その思い出には、皆が居た。

私とあの子だけではない。

面倒で仕方なかったあいつらが、私の思い出の中に居た。
忙しくて仕方なかったあの異変が、私の思い出にはあった。

笑えるわね。
今になって、やっと気づくだなんて。
悔しいな……なんでだろう。
大切なものは失ってから気づくものだって誰かが言ってた気がする。
失ってから気づけるなんていい事じゃないの。諦められるんだから。
どうしたって失うしかない時に気づいた私は、どうすればいいの?

だから、私は、

「何も起こらない、そんな平穏な日々が幸せだ……なんてよく言うけれど」

せめてその思い出を消さないように、

「なら私って」

するりと口から出ていってしまわないように、

「とっても、不幸だったわ」

その言葉を大切にしまいこんだ。





「ええ、そうね」

紫が、魔理沙達の方を見ながら返事をする。

「ねぇ、紫」

「何かしら」






失う。
何もかも。
私は全てを。
私の全てを。
全て、今までの全てが夢だったかの様に。

霊の夢……か。
なんとまぁ、私にぴったりの皮肉だろうか。
自然と顔が崩れてしまう。


私が居なくなったその瞬間に、その夢は、夢でさえなくなってしまう。
舞台から去った者は夢を見ることすら叶わない。




でも、だからこそ、どうしようもなく願ってしまうのだ。




「あの子も、たんと不幸にしてやってね」



















蹴鞠は私の足にぶつかって、動きを止めた。

「紫さーん。投げてー」

それを拾って、私は両の手で抱え込んだ。

「……ええ、分かったわ」

肩にもたれ掛かったままの、彼女の失われていく体温を感じながら。

「霊の見る夢は、私が代わりに見てあげる。だから……お休みなさいな」



























「ねぇ、一つ聞きたいことがあるのだけど」

「何よ、紫。こんな面倒なことに付き合わせるだけじゃ足りないって言うの?」

「あなたって今、不幸かしら」

「はぁ? ……そうね、忙しいし面倒だし、変な妖怪には懐かれるしで、不幸で不幸で仕方ないわ」

「あら、そう」

表情は、開いた扇子で隠せたはずだ。

「なら、良かったわ」


END

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