1ステージ目

  ノベル

 私達が魔女と呼ばれるようになって百数十年経ったけど、このような事態は初めてだ。
まさか今になって、魔女が人間を襲おうとするなんて、どう理解しようとしても理解できない。
まあ、分からないことは考えないに限るわね。分からないことなんだもの。

 私としては、偶にでいいけど「こういう事」が起こってくれた方が有難いと思う。
魔女の居るところには魔女が集まる。いつだって大多数に呑まれそうになる少数派は一人で居ると辛いもの。
特に、その大多数へと変わる事のできない場合は、孤独という病で死んでしまう。
ということは今回のコレにだって、恐らく何人か魔女が居ると考えるのが妥当なわけで。
魔女が沢山居れば、それだけ借金も返せるだろう。返済期限はまだあるから急がないといけないわけじゃないけど。
「返せるときに返す。三七はこれが分かっているから助かるな」
腹の辺りが低く重い音で揺れる――ような気がする。
実際にソコにいるわけではないのだから、そんな事はないんだろうけれど。
私の子宮に存在する悪魔がそう囁いた。
また彼は私の頭の中を覗いていたのだろう。昔は失礼な奴だとも思ったが、今は流石にもうなんとも思わない。
先ほどの台詞に表情を軽く崩すことで返事をし、私は眼前に広がる光景へと視線をやった。
方向はこちらであっているはずだ。こちらの方から色々とごちゃ混ぜになった力を感じ取れる。
こんな沢山の力を感じられるのだ、相当な数の金が転がっていると思って間違いないだろう。
お金が颯爽と空を飛び回っている光景を思い浮かべ、自然と頬が緩む。
「貴女のその、笑顔とはかけ離れた笑顔は、魔女でないと出せそうにないな」
若い女性の笑顔にこのような事をいう貴方は、紳士とはかけ離れたものだなぁ、とは思うが。
それは口にしない。したところで、「悪魔なのだから当然だ」と言われて終わりだものね。

 今回は借金を返すことも大事なのだが、それなら魔女たちが人間達を殺しまくって、ゲッシュを破った事による魔力の減少が起こった時を狙ったほうが圧倒的に楽だ。
そうしないのは、心配事が1つあるから。
ラピス――まだ若い魔女である彼女が、人間を助けようなどと血気盛んに飛び出して行ったからだ。
人間を殺したいという気持ちも分からないが、人間を助けたいという気持ちの方がもっと分からない。
まぁ、それは私が魔女だからであって、彼女はまだ人間の心が残っているからなのだろう。
そう考えると、人間を殺したいと思っている魔女さんも、まだ人間の心が残っているなりたてちゃんなのかも知れない。
分からないことに1つ仮説を立てる事ができてすっきりした。
今の気分なら、なんの迷いも無く返済に集中できそうだ。

 私は他の大陸ではマジックアイテムとして有名らしい、杖というものを、ぎゅっ、と握り締め、心が軽くなった分だけ、加速した。



  セリフ

魔女「さて。ここで一気に返済して、また楽な生活を続けたいですね」(笑顔:以下2)
ヨア「あぁそうしてくれ。いつ貴女がこちら側に来てしまうのかとひやひやしていたところだ」
魔女「あら、あなたは私がどうなっても問題ないのでは?」(驚いたような顔:以下4)
ヨア「借金も返してもらえずに相手を殺してしまうような借金取りが一流と思えるかね?
   生かさず殺さずで延々と搾り取るのが一流というものよ」
魔女「では一流なあなた様のためにもがんばらなくてはね」(2)
魔女「っと、それももちろん大事なのですが。今回は忘れてはいけないコトがもう一つあります」(少し口角が上がったような顔:1)
ヨア「あの娘の事だな。人間を助けるために戦うなぞ。面白い魔女もいるのだな」
魔女「それはまぁ、あれの娘ですからね」(困り顔:5)
ヨア「そうだな、あれの娘であった。人間的にはいい子と言われる部類なのだろうな、娘のそれは」
魔女「魔女的には失格も失格。ですが、まぁ、人間的に育ってくれて喜ぶ方も居る事ですし、よしとします」(2)
ヨア「む、どうやら迷える子羊と呼ばれるモノ達が来たようだ」
魔女「それでは行くとしましょうか」(1)
ヨア「もちろん、」
魔女「適当に、ね」(2)


  ボス前

魔女「久しぶりにこんなにも魔法を使いましたね」
ヨア「そうだな。普段生活している時に使う魔法なぞ、湯を沸かすときに使う程度のものだからな」
魔女「やはり魔女は魔法を使ってこその魔女ですね。とーっても気持ちがいいです」
ヨア「借金も返済できて、貴女の気分も好調になる。争いとは素晴らしいものだな」
1 「あれ? もしかして魔女じゃない?」
魔女「もしかしなくても魔女ですよ。あなたもそうみたいですね」
1 「あんたは殺す側? それとも守る側?」
魔女「殺す側ではないですが、別に守ろうともしてませんよ。借金の返済に、そこらへんの方を火の車にしてるだけです」
1 「あはっ、あたしもそうなんだー。やっぱこういう時に一気に返していかないとね」
ヨア「やはり考える事は皆同じなのだな」
1 「まあそうなるよねー。折角のチャンスなんだし。稼ぐ側? 稼がない側? なんて言われたら誰だって稼ぐ側になりたいさ」
魔女「えぇ、そうですね。それにしても、稼ぐ側の私としても小物ばかりで丁度飽きが来ていたところですし……」
1 「あ、やっぱ? あたしもそうなんだー。あんた、結構な善人のように感じるね。そんなに沢山の罪を背負ってあげてるなんて」
魔女「もちろん。あなたも中々の罪を被ってあげているようですね。そんなに持っていては重たいでしょう」
  「さぁ、お姉さんに跪いて懺悔なさい。そうすれば、私はあなたの罪を許しますよ。……結構な善人ですからね」


  ボス後

1 「ストップストーップ。無理無理、あんた強すぎ。なんだかんだで長いこと魔女やってるつもりだったけど、あんたはその上を行くみたいね。てっきり狩られる側の人かと思ったよ」
魔女「私もなんだかんだで長いこと魔女やっていますからね。……そんなにほろほろと涙を流したら、枯れてぽろっと落ちてしまいますよ、頭が」
  「ところで、他に魔女は知りませんか? もし見ていれば教えて欲しいのですが。騎士の格好をした子です」
1 「あーそれならさっきすれ違ったよ。小物臭かったからスルーしてきたけど。あんたの進んでた方向で合ってるね。でもまぁ、負けたのが来たばっかりで良かったよ。集め終わった後に負けてたら嘆いても嘆ききれない」
魔女「私としてはもちろんその方が良かったのですけれどもね」
1 「次は負けないからなー。さっきの勝負は久しぶりで、本気出せなかっただけなんだから」
魔女「あはっ、あたしもそうなんだー。本気なんて出さなくても、問題ないレベルでしたよ、魔女っ子ちゃん」
ヨア「貴女のその、他の魔女が喋っていたり使っていたものを真似する癖は治らないものか。流石に今のは酷かったぞ」
1 「ホントにね。大方、最初期からいる大魔女が、他人のものを真似するってーのを更に真似してやってるんだろうけど、似合わないからしない方がいいと思うよ。それじゃ、そろそろあたしはまたお金貯めてくることにするよ。会いたくはないけど、またねー」
魔女「はい、それでは」
魔女「………………」
魔女「ねぇ、ヨアナ」
ヨア「どうしたのだ?」
魔女「そんなに、酷かったかしら?」



ステージ2

 先ほどまでと同じ方向に飛び続けて少し経った。
こちらの方向にあの子は行ったらしい。やはり私の予想は合っていたようね。
あの子は人間を救いたい。ならどうすればいいのか、簡単なこと。
大元を倒せば終わり。ならば敵が進んでいる方向と逆に進めばいいだけの話だ。
まぁ確証も得られたのだし、少しスピードを速めて行こう。
できれば早いうちにあの子を抜いておきたい。
飛び出した時間を考えれば、そろそろ追いつけるはずだ。

 なにやら風が強くなってきた気がする。
速度を上げたからだろうか。それだけじゃないと思う。
さっきから纏わりつく空気が魔力を帯びている。
と言う事は
「風を操る魔女か」
その言葉に頷き、風を手のひらで受けてみた。
……微量なものだ。この程度なら苦労もしないだろう。
「脅威では無いな。して、何を考えているのだ?」
ニコリと笑い、「経験値稼ぎに丁度いいかな、と思っただけですよ」なんて答えた。
ヨアナは納得したかのように、でも少し不満そうにため息をつくのだった。

 さて、風の魔力が少し強くなってきた。近づいているんだろう。
さっさと借金を返せる分稼いで家に帰りたいわ。
というわけで軽く捻って遊んでいこう。
楽しい相手ならいいんだけど、辛気臭い相手だと面倒ねぇ、なんて考えながら。


  セリフ

魔女「目が乾きますね」
ヨア「これだけ風が強いと仕方の無いことだろう」
魔女「昔どこかで見た文献では、女性の目には常に星が舞い、きらきらうるうるとしていましたが。あれは乾き知らずで便利そうです」
ヨア「星が舞うと? それは興味深いな。どういった種族の者だろうか」
魔女「私には普通の女性に見えたのですが、確かに考えると色々とおかしなところも見受けられましたね」
  「恋をしていないと死んでしまうのかと思うほどに周りに男性が沢山いて、そして好きになってました。あれは恐らくチャームを使っているのでしょうか」
ヨア「あの娘とは全くの逆だな。あれは恋愛感情を持つと死んでしまう」
魔女「普通の女の子とは違いますもの。あくまで普通の女性のお話です」
ヨア「今回のこの騒動も、愛だの恋だののもつれが原因だったりするとくだらないな」
魔女「まぁありえない話ではないですが、それだとお話しをしなければなりませんね」
ヨア「何故だ?」
魔女「女の子はいつだって「コイバナ」というものが好きらしいのです。私もそれに倣わなければ、ね」
ヨア「倣う歳でもなかろうに……」


  ボス前

魔女「抜いたわね」
ヨア「あぁ、いつの間にか後ろに力を感じるようになっているな」
魔女「まぁどこで抜いたかなんてのはどうでもいいですね。ちゃんとこっちに飛んできてくれているようですし」
魔女「ところでこの服、風でヒラヒラするのが可愛らしいと思いません?」(2)
ヨア「そういうものなのか。私には動きが制限される要らないものにしか見えないんだが」
魔女「そうは言っても、今の魔女はこういう格好が主流だ、とこれを売ってくれた方も言ってましたし」(1)
ヨア「あの村に篭っている間にも、時代というものはしっかりと進んでいるのだな」
魔女「女の子は可愛いものには目が無いのですよ。私も女の子として、そういうコトにはしっかりとついていきたいと思うものです」(作れるなら説教みたいな顔。無理なら5)
ヨア「魔女の中でも長寿に入る貴女が何を言うか」
2 「あのー」
魔女「精神年齢など何の意味も為しません。大事なのは外見です、外見。ほら、女の子」(2)
2 「えーと」
ヨア「私には、外見だけを見ても理解には何度か契約の更新が必要そうだ」
2 「すみません!」
魔女「あら?」(4)
2 「あ! よければ、あの、えっと、悪戯させていただけませんか?」
魔女「可愛い魔女さん。悪戯なら、後で来る子にしてあげて」(2)
2 「あなたは、させて、くれないの?」
魔女「だってほら、私魔女ですもの」(2)
2 「そっか、
   戦って奪えばいいんだ」
魔女「物分りの良い子は好きですよ」(1)
2 「……子ども扱いしてると痛い目に合いますよ」
魔女「外見なんて何の意味も為しません。大事なのは中身です、中身。
   ほら、お嬢ちゃん?」(2)


 ボス後

2 「悪戯させてくれるだけでいいのにー……」
魔女「悪戯はするのは好きですが、されるのはあまり好まないので、すみません」(2)
ヨア「魔女的には満点な返答なのかな、それは」
魔女「それはもう。ところでお嬢ちゃん。まだ戦えるでしょう?」(1)
2 「罪も取られてないけど……なんで?」
魔女「さっき言いましたよね。後で来る子に悪戯してあげてって。そのためですよ」(1)
2 「……よくわかんないけど、分かったよ。罪を取らなくてありがとー」
魔女「いえいえ、どういたしまして。それじゃ、頑張ってくださいね」(2)
ヨア「本当に、魔女的には満点だ、貴女という人は」



ステージ3

 風使いを後ろの子に任せて、前に前にと飛び続ける。
返済具合は悪くない。もう後2、3人で返済が終わるかもしれない。

 それにしても、弱い。
最近の魔女はこの程度の力の者が多いのだろうか。
ラピスはかなり最近魔女になった部類だけど、それなりに力は持っている。
まぁそれはあの子の才能とか努力ではなく、契約した悪魔がかなり力を持っていただけのことだけど。
こんなにも弱くて、しかも人間を殺せない魔女なのに、人間というのは魔女を嫌う。
今更一緒に住もう、だなんて一欠片さえも思えないけれど。
それでも、一緒に住みたいと思っている魔女は少なくは無い。
それはそうだ。元は人間なんだから。
ただ、子宮に悪魔が居るだけ。
それだけの違い。
それだけ、と言って良いのか悪いのかは、魔女か人間かで変わるところなのだろう。

 暇つぶしにと色々考えるけど、結局面倒になってくる。
もうちょっと位楽しみ甲斐のある相手が居てもいいものなのに。
でも、いくら強くっても、本気は出せないけれども。

全力で、なんてもう忘れてしまった。
何事も適度に適当にが一番。
適度に楽しんで、適当に戦う。
昔はもっと、短い人生というものを精一杯生きようともしていたが。
今では、いつまで続くかも分からない人生を、怠惰に生きている。
それを、意味が無い、という人も居る。
私はそうは思わない。
10年で100の力を使うのと、50年で100の力を使うのと。
後者の方が、節約上手じゃないの。
だから私は後者を選ぶ。
100年で10の力を使いながら、私は生きていくのだ。

あの子との約束を守るために。



  セリフ

魔女「やはり最近はエコというものが大事なのですね」
ヨア「藪から棒に一体どうしたのだ」
魔女「何でもかんでも本気全力なんてしていては、連戦なんてできたものではありません。恐らくさっきまでの魔女はそれが分かっていなかったのではないでしょうか」
ヨア「なるほど。確かにそういった点では、貴女はしっかりと制限されているだけあって、コンスタントに力を発揮できているな」
魔女「それに何より、「エコ」というだけで、人気も出るらしいですし、街の方では。そろそろ水もエコなんて言い始めて、自分が出したものも大切にサイクルし始めるのでしょうか」
ヨア「私にはその感覚は分からないが……想像をすると、エコとはとても嫌なものなのだな……」
魔女「昔会ったことのある魔女にも、エコエコ言ってる方が居りましたし、あれは人気狙いだったのでしょうか」
ヨア「あぁ、そんな奴も居たな。懐かしい。あれは一体どうしているのだろうな」
魔女「さぁ、私には分かりませんエコ」
ヨア「これはひどいものを聞いてしまった」


  ボス前

魔女「良い相手が見つかりませんねぇ」
ヨア「エコエコ言うのはもう飽きたのか?」
魔女「昔真似をして言ってみましたが、人気なんて取れなかったのを思い出しまして。あの子にも止めてくれと言われましたし」
ヨア「あれの言うことには耳を傾けるからな、貴女は」
魔女「私よりも背が低いものですから、体ごと傾けなければ聞こえませんからね。仕方ないのです」
3 「…………」
ヨア「態度と声だけは相当な程に大きかったがな」
3 「………………」
魔女「そうですねぇ。他は小さくて可哀想……いえ、可愛そうでしたが」
3 「はじめましてー……」
魔女「!」
魔女「割と素直に驚きました」
3 「あぁ……はい……すみません……目立たないもので……」
魔女「どこに居ても目立ってしまう魔女が、ここまで目立たずに居られるだなんて、これは一種の天才なのでしょうか」
ヨア「天から授かった類のものでは無いだろう。全くの逆から授かったものだな、これは」
3悪「大正解」
魔女「あら、おたくの悪魔もお喋りなのですね」
3 「恥ずかしいから……いつも話さないでとは……言ってるんですけどね……」
3悪「なーにが恥ずかしいだよ。あたしのお陰で目立たずに生活できてるって言うのに。感謝してほしいくらいさ」
3 「あ……はい……ありがとうございます……」
魔女「ではまぁ、目立たない貴方は目立たずに居てください。私は探さなくても見つかるような魔女を探しますので」
3悪「そう言うなって。あたし達も罪集めに来てるんだ。することは一緒だろう?」
魔女「……仕方ないですね」
3 「えぇー……。敵の敵は味方と言うじゃないですか……私も大元を倒そうとしてるんですから……」
魔女「……分かって無いですね」
魔女&3悪「カモのカモは大カモ」
ヨア「それでは行こうか」
魔女「えぇ、エコにね」


  ボス後

3悪「はいギブアップー」
魔女「変に目立とうとするからいけないのです」
3 「別に……目立ちたいわけでは……」
魔女「目立つには目立つなりの必要条件があるのです。ちなみに私はすでに十分条件も満たしているので何も問題はありません」
3 「はぁ……」
魔女「いいですか? 目立つには、美貌です。そして強さ。カリスマ。何より、若さです」
3 「……えっ」
ヨア「いたいけな少女がまた一人自らを死地に追いやっている」
魔女「何に疑問を持ったのかしら? 答えて御覧なさい? 私は善人ですので、正直に話せば許してあげますよ?」
3 「あ……あはっ……許すって……罪を無くすことです……よね……?」
魔女「はい、よくできました」
  「よくできたご褒美に、罪以外にも色々と無くしてあげますよ」
3 「無くなるのは気配だけで結構ですぅ!」





ステージ4

 かなり進んできた。
そろそろ目的の物が見えてきてもおかしくは無いだろう。
借金を返済するという目的はすでにほぼ達成できている。
ラピスにも一人回したし、初めての返済なんだから、あれくらいで十分の量のはずだ。
まだ達成していない目的は、分からなかったことを分かるようにする、ということのみ。
結局、分からないことは諦めるか、知っている人に聞くしかない。
というわけで、私は後者を選んでみた。
久々に楽しい思いをさせてくれた相手。
久々に他人に興味を持つのも悪い事では無い筈だ。
何より、何かひとつ、しなければならないことがあったとして。
それを成す方法がいくつかあったとして。
私は面倒な方を選ぶのだから。
だって、そっちの方が、長く楽しめるじゃない。

長いこと生きていると、暇をつぶすことこそ我人生。
なんて、格好のいいことを言いたくもなるのだ。

それにしてもなんだか嫌な空気になってきた。
砂が舞っている感じがするのに、湿気がすごい。
普通、この二つは両立しない。
ということは、何かしらの力が作用しているとしか考えられない。
砂とか、湿気とか、そんなあたりの力を使う魔女の知り合いは居るけれど。
そいつらの仕業だというのなら、久しぶりに会えるのかもしれない。
でも、湿気の方はいいとしても、砂の方は正直遠慮したい。
砂とか関係無しに、あれと居ると目を開けていたくないのだから。
目に入れると痛いのだ。当たり前だが、痛いのだ。
あれを入れて痛くない人が居るのなら――それはそいつ自身、イタイとしか考えられないわ。



  セリフ

魔女「それにしても知り合いに出会わないですね。てっきり何人かは来てるものだと思っていたのですが」
ヨア「確かにそうだな。まぁ、もし来ていたとしても、貴女に会いたくないだけなのかも知れんが」
魔女「悲しいことを言うのですね。私のような壊れやすい心を持った者にそんなことを言うだなんて。この悪魔!」
ヨア「実際悪魔であるしな……。それに壊れやすいのではなく、貴女が他人を壊しやすいの間違いであろう」
魔女「壊したりなんてしません。壊してしまっては罪を頂けないではないですか。生かさず殺さずあたりが丁度良いのです」
ヨア「偶に貴女は900からいくらか引いたような発言をするな……」
魔女「先ほど貴方も言っていたではありませんか」
ヨア「私は良いのだよ。悪魔であるからな」
魔女「では私も良いのですよ。魔女でありますから」


  道中

下野「え、嘘やろ?」
魔女「あら? やっと知り合いに会えましたわ」
下野「うちはあんたなんて知らへんわっ!」
魔女「そんな寂しいことを言わないでください。げのっち」
下野「げのちゃうわ!」
魔女「変わらずお元気ですね。今日はどちらまで?」
下野「悪いけど急いでんねん。知り合いでもない人に関わっとる暇はあらへん。ほなー」
魔女「あらあら。久しぶりなんですから、少しはゆっくりしていけばいいのに」
ヨア「貴女は本当に大人気で仕方がないな」


  ボス前

魔女「なんだか覚えのある力ですが……」
ヨア「確かにそうだが……私はあまり得意では無かった記憶があるな……」
魔女「あぁ……思い出しました……これは……」
すな「お久しぶりですわね! 三七!」
魔女「うちはあんたなんて知らへんわっ!」
すな「まーだそんなお真似事をしていらっしゃるんですの? どうせ真似をなさるならわたしくの真似だけしていればよろしいですのに。たった一人の真似で完璧になれますわ」
魔女「世界に私以外に50億人住んでいるとしたら、4999999999人の真似をすれば満足しますわ」
すな「わたくし、あなたのことは結構認めている方ですのよ。容姿も強さも中々見るところのあるものを持っていますし。もちろんわたくしの次に」
魔女「私はあなたの存在を認識したくありませんけど」
すな「そんなことを言うのでしたら、お望み通りわたくしのことを見えなくしてさしあげますわ」
魔女「それではお望み通りにしてもらいます」
すな「さぁ、大人の砂遊びを致しましょう。そして思い出に溺れて死んでいきなさい」
  「今回ばかりはわたくしも本気を出しますわ」
魔女「あら、不公平ねぇ。私は本気を出せないというのに」
すな「本気にさせてあげます。それでもわたくしは負けませんの」
  「自分自身を褒めてくれる……いいえ……認めてくれる人達を守ること、本気を出すに値する価値があります」
魔女「そう、本当に本気なのね。では私も全力でいかせて頂きます」
  「全力で、適当にね」



  ボス後

すな「とりあえずこれくらいで許して差し上げますことよ」
魔女「久しぶりに楽しかったです。やはり長くいる魔女は違いますね」
すな「ところで三七。あなたは何故アカシャの元へと行こうとしているんですの?」
魔女「アカシャと言うのですね、その魔女は。別にそのアカシャだから、という理由はありません。
   ラピスが飛び出したから追いかけるついでに借金返済をしようとしているだけです」
すな「そうですのね。それならひとつ、お願いがありますわ」
魔女「あら、珍しい。どうぞ、ひとつだけなら聞いてあげますよ。叶うかは別としてですが」
すな「幸せに死ぬのと、不幸に生きるのと。あなたはどちらを望むのかしら?」
魔女「お願いでは無い気がしますが。そうですね、私なら幸せに生きますよ」
すな「そうですわね……。やはりそうでないといけませんわよね。なら、これがお願いですわ」
  「どうしたいかを選択をしなさい、と。アカシャに会ったら、そう言ってくださいまし」
魔女「それくらいならまぁ聞いてあげないこともないわね。分かったわ。言っておく。もちろん、気が向いたらですが」
すな「それでは、よろしくお願い致しますわ。わたくしは戦線離脱と行きます。失礼させていただきますわ」
魔女「会っただけですでに失礼でしたので、何も問題ありません。それでは」


すな「ふぅ、そう言って三七の気が向かなかったことをわたくしは知りませんわね」
  「それにしても、どうしたいかで選べとは、わたくしも酷な事を言ってしまったものですわ」
  「それができないから、あの子はあんなにも苦しんでいるというのに」
  「三七……あなたはアカシャに似ています。アカシャとクラサスを見ていると昔の三七とリィユを思い出しますわ」
  「だから、あなたに任せるしかありませんの。わたくしの友人を頼みましたわ。三七」





ステージ5

 久しぶりの知り合いに会ったが、まさか彼女の知り合いが目標の魔女だったなんて。
偶然というものも、偶には粋なことをしてくれるものだ。
さて、どうしたものか。
頼まれごとをするのは久しぶりだ。
会って、そして話すタイミングがあれば特に絶対に言ってあげない、なんて気はないのだけど。
ただ、人間を殺しまわっているような魔女に、普通の話が通じるのか、私は会った事が無いから分からない。
でも彼女が友人だと言っていたし――いや、彼女の友人だからこそ無理なような気もしてきた。
しかし、彼女にあそこまで好かれているとは、やはり興味が沸いてきた。
自分を褒めてくれる人にしか興味を持たない彼女が、あそこまで気にかける魔女。
うん、やっぱり面倒な方を選んで正解だったようだ。いい暇つぶしになるだろう。

あぁ、お辞儀をして笑いかけてあげたいほどの懐かしい感情が少しこそばゆい。
もう少し速度を上げていこう。
できるだけ早く会ってみたい。
どんな魔女なんだろう。
ずっと閉鎖されて、そしてそこで完結していた世界で住んでいた私には。
自分には理解できない思考を持った魔女を理解してみたいという気持ちが溢れ出すのを止めようという思考は沸いてこない。
まぁもちろん理解なんてできないし、する気だって実は更々無い。
ただどんな考えを持った魔女かを知りたいだけ。
私は魔女なのだから。
魔女という単語を思い浮かべたら、私が出てくるような魔女になるのだから。
ならば、私の理解できない魔女が居てはならないのだから。
魔女らしく。魔女であれ。
だから、私の知らない魔女さん。アカシャちゃん。
私の魔女の一部に、さぁ、早く、なるのよ、ねぇ。



  セリフ

魔女「さて、一体どんな魔女さんなのかしらね。アカシャちゃんは」
ヨア「人間を殺し、あのスティスに気に入られている魔女であろう……? まともだとは思えんな」
魔女「魔女にまともも何もありますか。まともじゃない魔女ほどまともなんですよ」
ヨア「では魔女たらんとする貴女はどうなるのだ?」
魔女「もちろん、とってもまともな魔女ということですよ」
ヨア「まともな魔女同士が戦うと、まともな戦いにはなりそうにないな」
魔女「だから言っているではないですか」
  「まともじゃないほど、まともなのだとね」
ヨア「まともな思考をしていないな、そんな戦いをしたいとは」
魔女「えぇ、だから私はまともな魔女なのですよ」



  ボス前 ノベル


「あれが……そうみたいですね……」


 目の前にあったのは、暴力だった。
何かを壊すには、何かの理由が必要だ。
少なくとも私はそう思っていた。
でも、目の前のそれは、私の考えを超えていた。
そう、超えていたのだから、分かるはずもない。
彼女は、目に入ったもの全てが自分に危害を成すものだと決め付けているかのように、力を振り回している。
それは、彼女の前に立っている、
「はっ、ははは。罪だ。沢山あるぞ。お前の持ってるそれを、私に奪わせてくれる気はないか?」
私にも、同じ事が言えるのだろう。

「楽しそうですね。混ざりたくは無いですが」
「あぁ……くくっ……楽しい……よ……。こうしていれば私は生きられる……死なずに済むんだ……」
 一体どういうことかは知らないが、彼女はこうすることで生きることができるらしい。
――なるほど、栄養補給みたいなものだのだろう。
ゲッシュの達成という。

「さて、正直なところ、私としては別にあなたと罪の奪い合いを楽しんでもいいのですが」
そう言って私は彼女と少し距離を詰める。
彼女はそれに何の反応を示すことも無く、ただ少しだけ、笑っていた。
それはまるで、泣く、怒る、喜ぶ……笑うこと以外の表情が無くなってしまったから、仕方なく笑っているのだと。
そんな表情に、そんな無表情に思えた。
「それを望んでいない方に先ほど会いましてね」
「それは……ダメだなぁ……くひっ……私にシネって言ってる……のだろう……?」
 さぁ、と首を傾げながら、
「まぁ、死んだほうがよさそうな気もしますね、あなたは」
その言葉を聞いてか、彼女は空を見上げて笑い声を上げた。
声が擦れて、よく聞き取れないけれども。
それは確かに笑い声だった。
一頻り笑い終え、彼女は未だ空を見上げ続けていた。
何かあるのだろうかと思い、私も同じように見上げてみたが。
そこにはいつもどおりの、誰も歩いていない、青い床が広がっていた。
「はっ……ははっ……はぁはっ……何も言ってくれやしな……っいなぁ……」
「空は何も言いませんが、その上に住む輩は色々と言ってくれますよ、小言をね」
そんな私の言葉にも反応をせず、ずっと上を見続ける彼女。

ふむ、どう考えてもこれは普通ではない。
変な思考回路を持った魔女は居るけれども、これはそういったタイプのおかしさとは違う。
自分がもう、どうしたって助からない、死んでいく――。
そういう、抗うことのできない絶望を理解していながら、受け入れることができない。
そんな精神の崩壊。
そしてそれを促す、子宮に潜む悪魔。
なるほど、彼女はやはりゲッシュを守っていなかったのだ。
ゲッシュを守らなければ借金が増えるし、魔力も減り続ける。
魔力が減れば、罪を集めづらくなり、結果借金を返せない。
一度ゲッシュを守らずに魔力が減ってしまうと、取り戻すのは容易ではないのだ。

 そして、私は、彼女を見た事がある。
とは言っても、もちろん、アカシャの事ではない。
このように、ゲッシュを守らず、魔力が減り……そして……
悪魔化して、死んでいった、魔女の事を。

「懐かしい事を思い出させてくれましたね」

 言うまでも無く、彼女はその言葉に反応する事は無い。
空を見上げながら止まった彼女を見ながら、私はその懐かしい事の中に出てくるあの子を思い出した。

「ん――あなたは、なんでそこまでして、生きたい、って思うのかしら?」

 応答をしないと思っていた彼女は、その言葉の何に反応したのか、突然空から私の瞳へと視線を落とした。

「……好きな人の願いを聞いてあげるって、いけないことなのか?」

 なんて、そんな純粋な返事が、返ってきて。

「好きな人とずっと一緒に居たいって願いを叶えたい、そう、思って、それの何がいけないことなんだ?」

 彼女の声はどんどんその振動を失っていった。

「……それだけだっていうのに……それくらい許されてもいい生活を送ってきたはずなのに……」

 そして、失われていったそれは、消えた。




 無言の中、風が髪を揺らす音しか聞こえない。

 そんな中、心が空を揺らす音が聞こえてくる。

 ……私もまだまだ魔女になりきれていないようだ。
これくらいのことで昔を思い出して、そしてこんなにも鼓動が速くなるだなんて。

 どうしようもなく、私はイラついていた。
自覚はしているけれど、それを止める術を試そうとは思えなかった。
ただ、外に出して発散することを、選んでみたいと。そうは思った。
だから、

「えぇ、いけないことですね」

 そんなことを、外に出してみた。

 もちろん、その言葉を受けた彼女の反応は見なくたって分かる。
今までの、自分の周りにあるもの全てに向けられていた破壊の意識は。
私の存在だけへと向けられていて。
それでも私は、止めなかった。止める事を放棄していた。


「ねぇ、アカシャちゃん。知っているかしら。好きな人を傷つけない方法」

――あぁ、醜い。

「簡単なことよ。とっても」

――自分に失われたものを持っている存在を、疎ましく思っている。

「自分が死ぬか」

――そんな自分が。

「相手を殺せば、もう、相手は、傷つかない。傷つける事はできないのよ」

――酷く、醜い。

「だから、ねぇ」






「死になさいよ」



――――私が失った大切なものを持っている貴方が、酷く羨ましいから。










そんなはずはない。

「本当に?」

あるはずが無い。

「あなたが居なければ、その好きな人が傷つかなかったはずなんてことは無いの?」

だって彼女は、笑ってくれた。

「あなたが居たせいで、好きな人が傷ついたことは無いの?」

笑いかけてくれた。好きだって言ってくれた。

「そばに居るのがあなたじゃなければもっと笑ったのではないの? もっと好きになっていたのではないのかしら?」

あるはずが、無い。

「本当に――?」

そんなはずは――





 あぁ――

 私も、そうだったから。

 よく分かる。

 好きだと言う言葉が、あんな悲しみを生む事を私は知らなかった。

 一緒に居ることで、あんなにも傷つき、そして傷つける事になるなんて知らなかった。

 あんなにも。

 そう。

 殺してしまうだなんて。

 知らなかった。



 彼女――アカシャはあれから俯いたまま動くことは無い。
彼女も思い当たることがあるのだろう。
「自分が死ねば、相手を殺せば。それ以上傷つける事は無い」
当たり前の話だ。死んだ者は、驚くほど何もできないんだから。
生きている者は、死んだ者に驚くほどに無力なのだから。

――でも、私はひとつだけ嘘を吐いた。


「私は――それでも――死ねない――」

 突然彼女は呟いた。

「クラサスと、約束したんだ。一緒に生きるって」

 その瞳には、先ほどまでの壊れた何かを読み取ることも、そしてその表情も、失った何かを感じることもできずに。

「トモダチは、裏切らない。だから、私は、クラサスを裏切らない。だから――」

 私に対しての、歴とした、殺意だけを感じる事ができた。

「私は、死なない」




「そう、ならよかったわ」
私は手に持った杖を少し握りなおした。
「したいことをしてくれるようで。これで私の頼まれごとは、ちょっとは達成したのかしらね」
そして服を整えて。
「なら、次はあなたのお願いを聞く番ね」
呼吸を整えてから、
「おいで、魔女ちゃん。生きたいのなら私と戦いなさい。お願いは聞いてあげる」


見上げた空は、やっぱり何も言うことは無かった。


「気が、向いたらね」







 ボス後

魔女「気が向かなかったわ。ごめんなさいね」
アカ「…………」
ヨア「気が向かなかったら、彼女の罪を取っているだろうに。貴女は本当に素直ではないな」
魔女「奪ったところで利子の足しにもなりはしません。面倒なだけですよ」
アカ「……そうか、私は死ぬのか」
魔女「まぁ、空を飛ぶ事すら無理になってしまったようですし。難しそうですが、とりあえず」
  「どうしたいか、それだけで選びなさいな」
アカ「?」
魔女「これで少しではなく、しっかりと達成致しました。スティスからの伝言です」
アカ「あぁ、あんた、スティスと会ったのか。私も最後にもう一度くらい会いたかったな」
魔女「あんな子と? やはり魔女はまともではありませんね。私なら出会ってさえ居ないほうが幸せな最後を迎えられる気がします」
アカ「なんだろうな。前の私ならそれに賛成していただろうけど。今は、あいつと向き合って、抱きしめて、ありがとうって、言ってみたい。そんな気分だ」
魔女&ヨア「まともじゃない……」
アカ「まともじゃないことくらい、分かってるさ。人を殺して、ゲッシュを守れる魔女なんて、私だけだろうよ」
魔女「そうですね、罪なことをして罪を得るだなんて。まぁ、合理的だと言えば、そう言えなくも無いですね」
ヨア「……いかんな」
魔女「どうしたのですか?」
ヨア「彼女の魔力が上がってきている。これはゲッシュをどうのこうのと言ったものではない。これは……」
魔女「……そう。もう時間なのね。契約は20年更新だと伺っていますが。悪魔が返すのを無理と判断すれば……」
アカ「そうか……悪魔化か……。まぁ、人を殺したんだ。幾人も。もう……悪魔みたいなものさ……っつ……」
魔女「何上手い事言ってるんですか。そんな暇はありませんよ」
アカ「なら……どんな暇があるって言うんだ? ……何もないさ……。私は悪魔になって……」
  「どうしようもなく、死んでいくだけだ」
  「クラサスの願いを叶える事も出来ない。私がそれに対して喜びを感じることもできない……」
魔女「そうですね。もう何も無理です。残念ながらあなたは今から悪魔化し、溜まった借金分の返済のみを行動原理とするモノになります」
アカ「くくっ……あんた……意地悪って、よく言われるだろ……」
魔女「まさか。意地善ですわ。だから、こんなにも、優しくしているのですよ」
アカ「まぁ……仕方ないか……人には過ぎた願いだったんだ……うぅ……永遠なんてものは無いって……」
魔女「永遠に生きることは確かに難しいでしょう。それでも、少しでも長く一緒に居る事は素晴らしいことだとは、思いますよ」
アカ「……割に、あんたはさっき……死んだほうが傷つけないって……言ってたよな……」
魔女「それがですね、私、一つ嘘を吐きました。死んだ者は、何もできないから傷つけないと……」
  「確かに、死んだ者は何もできません。でもね」
  「死ぬ瞬間に、生き残る者の力を奪っていくんですよ。全てを辞めたくなるほどに、ね」
  「死ぬ瞬間に、生き残る者を、今までで一番傷つけるのですよ。もう、治らないほどに、ね」
アカ「……やっぱ、あんたは意地悪だ……」
  「一番傷つけたくない、って思ってた相手。一番幸せになって欲しいと思っていた相手……」
  「近づけば近づくほど。最後には傷痕を残すんだな。難しいもんだ……」
魔女「確かにね。まぁ、簡単な世界で長生きしたいとは思わないですし。多少難しいくらいで調度良いのですよ」
  「それに、方法が無いわけではありませんよ」
アカ「……何?」
魔女「悪魔化すれば、輪廻の輪に戻るのはかなりの時間がかかると聞きます。
   ですが、悪魔化する前に死ねば……人間のまま死んだのと同じ扱いをされるらしいです」
  「ということは、今、あなたが死ねば、現世では一緒に居ることができなかったとしても」
  「来世では同じ世界で同じように、一緒に暮らすことができるかもしれません」
アカ「――なるほどね。はぁっ……死ぬしか無いってことだな……やっぱ……」
魔女「したいようにしなさいな。クラサスの願いを叶えたいのでしょう。あなたは。
   確かに現世ではそれは難しいでしょう。それでも、未来に願いを託すことができるのです」
  「何故人は生きるのか。なんて訊かれれば、私はこう答えますよ」
  「願いを叶える為だ、と」
  「まぁ今回は何故死ぬのかと置き換えた方が綺麗に収まりますが」
アカ「あんたみたいな意地悪な奴に共感するのは癪だな……」
魔女「物分りが良い子で助かりますわ」
  「意地悪ついでにアドバイスですが。あなたのゲッシュはよく分かりませんが、人を殺すか、物を壊すか。
   そんなところでしょう? それなら、どうせ死ぬんですし、あの世に持っていく借金を少しでも軽くするようにすると良いと思いますよ」
アカ「……意地悪なんてもんじゃないな、あんた……。性悪だ……生まれもっての魔女ってことかな……」
  「……理解したよ……。じゃあ――……」
悪魔「んなことさせるわけ無いだろ」


ノベル

 突然聞こえたその声は、確かにアカシャの方から聞こえた。
間違いは無い。あれはアカシャが契約した悪魔だろう。
悪魔からすれば、力を与えた、願いを叶えただけで、その見返りを得る前に死なれては、ただの契約損である。
今、アカシャがしようとしてるのは、悪魔に取っては許されないことなのだ。
「アカシャ! 早くなさい!」
 声を上げるも、彼女は頭を抱え、声にならないような声を張り上げることに必死だ。
……ダメだ。今は昔を思い出して感傷に浸る暇は無い。
「貴方が彼女と契約をした者か。随分と力を持っているようだな」
 ヨアナが彼女の悪魔に話しかける。
「そりゃそうだ。どっかの創造神なんて崇められてる奴とタイマンはったんだぜ?
 普通ならお前らみたいな奴に負けるなんて有り得ないんだがね」
 嘘では無いと思う。
確かに恐らく最近魔女になったばかりであろう割りに、彼女の強さは今までの魔女の比にならなかった。
これはラピスと同じように、契約した悪魔が強かったから、という理由に他ならない。
私の契約した悪魔――ヨアナは、まぁ弱くは無いが、決して強いというわけではないというランクだった。
ただ、こうもずっと魔女をしていると、それ相応の罪を得ている訳で。
ということは、それ相応に強くなっているのは自明だ。
でも、今はそんなことはどうでもいいのだ。
「そんなに強い悪魔だと……アカシャが耐え切るのは無理ね。どうせならと思ったけど、仕方ないわ」
 杖をもう一度握りなおす。普段よりも力が入っているのが、自分でもよく分かる。
……殺すのは初めてではない。
でも、だからこそ、震えてしまうのだ。
思い出してしまうのだ。
残された者の辛さを知っているからこそ。

殺しなれた、なんて事を、魔女をしているとたまに聞くことがある。
魔女を殺してしまえば、一番簡単に罪を得る事ができる。
殺さずに降参させるのは、力加減が少し難しい。
それなら、無防備なところを、全力で叩いたほうが簡単で素直だから。
でも、私は殺すことに慣れるなんて、有り得ない。
一度殺しただけで、こんなにも辛いのに。
一度殺しただけで、こんなにも震えるのに。
二度殺せば、どうなってしまうのだろうか。
分かりたく無い。分かりたくなんて無い。

 でも、目の前で苦しんでいる彼女を見ると。
目の前で苦しんでいた彼女を思い出してしまって。

 生き残った私の人生を思い返すと。
生き残ってしまう彼女を考えてしまって。

 だから、私は杖を振り上げた。


「意地悪ついでに、後悔をする暇も無く、殺してあげます」

 そう、一人呟いた言葉は。

「アカシャ!」

 遠くから聞こえた声に上書きされた。




「待って! 殺さないで! 罪が欲しいなら私のをあげるわ! 好きなだけ……だから……お願い……」

 その声の主は、私とアカシャを結ぶ直線の中心に立ちはだかった。
私は握っていた杖を少しだけ緩め、彼女を見据えた。
あぁ、彼女が、クラサスか。
さっきまでの葛藤の無意味さに少しだけ気だるさを感じながら、内心ほっとしている自分にも。
照れ隠しのように、私は言葉を続けた。

「殺したくて殺そうとしていたわけでは無いわ。でも、殺してあげたほうが二人とも幸せになれるのよ?」

 説明は面倒なので省いたが、彼女は理解をしているのか、ひとつ頷いた。

「そうだとしても、もしそれしか方法が無いのだとしても……それは私にやらせてください」

 そう言った彼女には確かな意思を感じられた。
好きな人だからこそ殺したくなんてない。
でも、好きな人だからこそ、自分が、この手で殺すのだと。

「まぁ、そこまで言うのでしたら、私は関与するところではありません。ですが……時間はあまり無いですよ」

 そう言い、クラサスの奥に視線を動かす。
クラサスもそれに倣って後ろを向いた。
そこには先ほどよりも更に魔力が膨れ上がり、自制が利かないのであろう、体が大きく振るえ続けている彼女が居た。

 クラサスはそんなアカシャにそっと歩み寄る。
一歩近づけば、一歩悪魔に近づくような。
もし一歩離れたとしても、一歩悪魔に近づくのだろう。
だから、彼女は止まらなかった。
一瞬も時間を無駄にできないことは、彼女も分かっていた。
伝えたい事があるのなら、伝えなければ伝わらない。
人は良く、思いは伝わるとか、察するだとか、そんなことを言うけれど。
思いは、言葉にしなければ伝わらないのだ。
そんな簡単な事を、彼女はちゃんと理解していた。

「アカシャ」

 手を伸ばせば届く距離。
クラサスは止まり、言葉のみをアカシャの元へ。
手は体に当たり止るけれど。
言葉はきっと、耳から体の中に入ってくれるのだろう。
だから、きっとその言葉は、アカシャの心に聞こえたのだろう。

「もう、我慢しなくて、いいんだよ」

 だから、アカシャの震えが止まる。
自分が悪魔になると言うことさえ忘れてしまったのだろうか。
それほどまでに、目の前に立つクラサスは彼女にとって全てなのだろう。

「私、知ってるんだよ。アカシャのゲッシュ」

 そう言って、クラサスは手を伸ばす。
体で止まると分かっていても、触れたくなるのは。
二人の間に、空気一つさえ挟みたくないからなのだろうか。
それとも、伝わる体温が、心まで届くからだろうか。

「自分が大事に想ってるものを、人を、壊さないといけないんだよね。だから皆を傷つけちゃったんだよね」

 伸ばした手は、アカシャの右手を取る。
それを自身の胸に当て、包みこむ。

「ねぇアカシャ。私の事も大事に想ってくれているのなら……」

 その手に力を込めて。

「私を殺して」









「なぁ、三七」

「何かしら?」

「私は……あんたが想ってる以上に、あんたが必要になっていたんだな」

「そう……英雄様にそう言って貰えるとは光栄です」

「だから、三七」


――最後まで、あんたを必要にさせてくれないか?







「アアアアアアアァァアアアアアアアアアァッ!」

 アカシャは咆哮した。
ソレはアカシャだったのか、それともアカシャの形をした悪魔だったのかは、私には分からない。
それでも、彼女は葛藤の中で呻きもがいている。
彼女の願いを聞いてあげたい。
でも、それを聞けば、自分の願いが叶わない。
何よりも、自分が一番大切に想っている――嫌、愛している相手を殺すなんて。
無理なんだ。
普通なら、無理なんだ。


 それでも、相手を想えば想うほどに、願いを聞き届けたくなるのだから。
感情というものは、これだから――。

 クラサスはアカシャの手を未だ強く包みこんでいる。
そして、彼女はまた一つ頷き、アカシャを見つめた。



 ――長い時間だった、と思う。

「アカシャ……」

クラサスは、アカシャの顔を見つめ続けた。

「ねぇ、アカシャ……」

忘れたくない景色を、脳裏に焼き付ける時の様に。

「私の……友達……」

ずっと、見つめ続けた。

「最後のお願いよ」

そして彼女はこう、締めくくる。

「――――」



 瞬間、閃光が走った。
数瞬後、赤色が地面を染めた。
視線の先で背中を向けているクラサスのそれは赤く。
その向こう側で立ち尽くすアカシャの腕もそれと同じことを知った。

 その小さな背中は力なくアカシャにもたれかかり、そのままずるずると下がっていく。
それを呆然と眺めながら、アカシャはずっと、ただ立ち尽くしていた。

 驚いた。悪魔がもう無理だと判断した程に借金が溜まっていたというのに。
彼女はもう、アカシャだった。
先ほどクラサスが言っていた。
アカシャのゲッシュは、大切なものを壊すことだと。
と言う事は、今までの何年分かの膨れ上がった借金を全て帳消しできるほどに、アカシャはクラサスの事を。

――皮肉な話だ。
一緒に生きていきたいから生きたいと願ったのに。
その相手を殺すことでしか、生きる事は出来なかった。
本当に――酷い話だ。



「アカシャ。しっかりなさいな」

 彼女は顔を上げない。
上げられないのかも知れない。
それはそうだろう。
下を向かなければ、大好きな彼女を見る事ができないのだから。
上を向けば、何も言ってはくれない空しか広がっていないのだから。

「そんなに見つめても、何も起こりはしませんよ。
 死者という者は、案外、何もできないものですから」

 体がピクリと動く。

「彼女はもう、その死者なのですから」

 その体は、腰から下が無くなったかの様に、地面に座り込んだ。
アカシャは、クラサスの体を震える自身の手で抱え込む。
クラサスは動かない。
当たり前だけれど、何も喋ってなんてくれない。
でも、それを信じられない気持ちは……よく、分かる。

 あぁ、またイラついてきた。

 彼女は、私なのだ。

 今なら分かる。あのスティスが私に頼み事をした理由が。

 私だから、私だったのだ。

 亡骸を抱きしめながら、ただ泣き叫ぶだけの。

 あの日の、私だったのだ。



「スティス……厄介な頼み事をしてくれましたね……」

 頼み……それは、きっと今、ここで訊くべき事なのだ。
あの時の私を知っているからこそ。
そして今の私を知っているからこそ。
彼女は、私に、アカシャにそう言ったのだ。

「……サス……クラサ……ス……」

 アカシャは彼女を抱きしめながら。
彼女の髪を掴んで、頭を胸に押し付けながら。
その首筋に、涙を落としながら。
名前を呼び続けていた。
どこかに居るとでも思っているのだろうか。
魂はまだ近くにいると、そう思っているのだろうか。
呼んだところで、戻ってきてくれなんてしない。
願ったところで、叶えてくれなんてしない。
それが、死ぬということなのだから。

「アカシャ!」

 声を張り上げて呼んだ。
クラサスと共にどこかに行ってしまいそうだったから。
その声にアカシャは少し反応を示して。
目の焦点はゆらゆらと舞いながら、私の方へと集まりだした。

「アカシャ……。あなたは……どうしたいのかしら?」

 訊いてみる。

「クラサスは……死んだ……。どうしたらいい……?」

「あなたはクラサスの願いを叶えたいのでしょう。なら叶えなさい。その身で」

 ぐっと、その頬を引っぱたいてやりたい感情を押さえ込んで。

「人に、頼るな」

 その台詞を受けてか、彼女は目を見開いたかと思うと。
開いたそれには、溢れ出す涙を止める力は無かった。

「っくあ……はぁ……ああ……あああああ……ぅうううううあああああぁあああああぁぁあああああああああ!!」




 どれほどの時間が経ったのだろうか。
彼女の声は嗄れ始め、擦れるその声は私の心を削り取るように響いた。
その声に耐え切れず、私は彼女が先ほどしていたように、空を仰いだ。

 あそこに住んでいると言われる者は、何もしてくれない。
自分に利益をもたらしてくれる人を構うのに必死なのだろう。
だから、自分に何もしてくれない人に、あいつは何もしてくれはしない。

だから、私は私で生きるしかないのだ。
だから、彼女も彼女で生きるしかないのだ。

「クラサス……クラサス……あ、あぁ……」

 アカシャは名前を呼び続けている。
でも、それは先ほどまでの表情とは違って。

「名前を呼ぶだけで幸せだった……一緒に居るだなんて……我侭な願いだったんだ……」

 少しだけ、嬉しそうで、

「自分が幸せにするだなんて……彼女の笑顔は私が持ってくるだなんて……」

 少しだけ、悲しそうで、

「結局……それは自分の幸せだった……自分の我侭だった……」

 何より、辛そうだった。



「そうかも知れないわね」

 それを見ながら、私は少しだけ微笑む。

「一つだけ、訊かせて頂戴」

 私の表情を怪訝そうに見やり、彼女は耳を傾けた。

「あなたの願いは……なんだったの?」






「私の願いは……」

 そう、考えて、口に出す彼女は。

「そうか……私の願いは……」

 私と同じように、微笑んで。

「クラサスの願いを叶えたいんじゃ無くて……」

 一筋だけ、頬を伝って。

「私の願いが……クラサスの願いと、同じ願いだったんだ……」

 それは、クラサスの頬に落ちた。





「アカシャ。私と一緒に来ないかしら?」

 そのまま、少し。
私は彼女に語りかけた。
でも、彼女はその誘いに頭を振った。

「辞めておく。私はさ」

 したいように、させてもらうよ。



 そう一言言って、彼女は笑ったのだった。



 その胸に、手を当てながら。






 彼女は倒れる。
胸から血を流して。

 なのに、彼女はまだ笑っていた。

「なぁあんた――頼み事を聞いてくれるか?」

 その笑顔を消さずにそんなことを言う彼女に私は。

「ひとつ――だけならね」

 なんて言うのが、精一杯だった。

 クラサスの手を捜しながら、アカシャはその頼みを托そうとしている。

「同じところに……埋めてくれないか――」

 ずっと一緒に居られるだろう――?

 私はそれに返答をすることが出来なかった。
声が、出なかった。
私は、生きる事が全てだと思っていた。
死んでしまえば何も残らない。
でも、二人は死んだ後にも、残そうとしているのだ。
自分達の、願いを。

「やっぱ――意地悪だな、あんたは……」 

 二人は地面に寝転がり。

 二人は天を仰ぐ。

 二人は手を繋いで。

 二人は寄り添っていて。

「クラサスは……私のゲッシュを果たさせてくれた……」

 横に寝ているクラサスの顔を見るために顔を横に向けて彼女は続ける。
手には、二人の間に咲いていた花を掴んでいた。

「だから、さ」

 その目には、もう、涙は無かった。

「次は……私の番……」

 そのまま彼女は目を閉じて。

「初めてなんだ……それくらいの我侭……いや――願いは――」

 許してくれるだろう――?



 この花を持っていくから。

 いつもみたいに、笑って迎えてくれよ。

 なぁ、クラサス――














「終わった……か」

「そうね。全て、終わったわ」

「彼女たちは、これで正解だったのだろうか? 悪魔の私には分からんことなのかも知れんな」

「正解……では、無いと思います。でも……」

「でも?」

「……こういう選択肢も……関係もあったのかも知れませんね」

 私は、一つ深呼吸をして、軽く頭を振った。

「まぁとりあえず」

 そして、二人にこう、告げる。

「気が、向いたら。ね」

 なんて。



 ED後

騎娘「花を買うなんて珍しいな。世界で一番似合わない女だと思っていたのに」
レイ「お花売りなんてしても、誰も買わなさそうだしねー」
魔女「高値の花ですから。私を買いたければそれ相応の懺悔でもしないと駄目ですよ」
ヨア「貴女が満足する罪を持っている輩なぞ、地下にしかいないであろうに」
騎娘「で、この花どうすんの? なんて言ったっけ? マーガレットとアカシアだっけ?
   何に使う気で買ったんだよ」
魔女「そうね……」
  「気が向いただけ、ですよ」


END

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