「それでは作戦を少し。まず、門に二人門番役をお願いします。
 剣を二振り持った男と、ホルン家の血筋なので髪の色は綺麗な緑色の女の
 二人組みが来たら、まず間違いなくミドガルドからの諜報員です。 
 それともう一つ。もしも馬に乗ってきたら、馬を預かってあげてください。そして馬の蹄鉄を見てください。
 そこに『ミドガルズ』と書いてあれば確実です。まぁ馬に乗って来たらの話ですが」

「はい、分かりました」

「そして次ですが、その二人が来たら皆に伝えるために花火を上げてください。
 門番役の方、来たのを確認したら門のところにある導火線に火をつけてください。
 城から花火が上がるように取り付けておきました」

「了解っす!」

「そして……それだけでは特定できないので、目印を持たせます。そうですね……
 怪しまれないもの、祭りですし『風船』でも持たせましょう。
 子供に渡させたら特に怪しくも無いでしょう」

「了解した」

「そして最後に、確実に見るために人だかりを作ります。
 私が踊りますので、そこに人だかりを作ってください。
 人間、人だかりがあれば見たくなるものですから。
 来そうに無かったら……え〜と……まぁ臨機応変に呼び寄せてくださいね」

「おお!」

  皆の熱気が伝わってくる。でもこれは……作戦に対する熱気じゃないなぁ。

「久しぶりですね! シグル様が踊るなんて! オレ、人だかり役、引き受けました!!」

「オレもだ!」

「もちろん私も!」

  ……やっぱり。喜んでくれるのは嬉しいけどね。
 作戦に支障が無いなら楽しんでくれた方が本物っぽいし、いいとしますか。

「ではみなさんよろしくお願いしますね」

「神の意思を!」




  部屋を出て、ふぅ、と心の中で一息つく。
 さて、少し練習していこうかな。




  祭りが始まった。さすがにミドガルズからの距離を考えてまだ来ないはずだ。
 来るとしたら……十一時から十二時ってところだろう。それまでは……遊ぼっと。 

「シグル様! おはようございます!」

  街をふらふらしていると子供が駆け寄ってきた。やっぱりかわいいなぁ。子供って。

「おはよう。どうしたの? 店番かな?」

「うん! ボクね、店番できるんだよ! すごいでしょ?」

  自慢げに話してくる子供。こういうのを平和というんだろうか。
 そうだとしたら、守りたい。そしてもっと大きな自慢が出来るように、もっと確実で大きな平和が欲しい。
 私がやっている事は間違いじゃないんだ。


  ……違うか……これはただの口実。私がする事に対して、保険をかけているだけ。
 だた、私は正当化したいだけなんだ。この子達、この国の人達全てを危険にさらしての復讐を……
 平和のためというもっともらしい理由で――

「どうしたの? シグル様? お腹痛いの?」

「ん……大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。そうそう、私も店番手伝ってもいいかな?」

「え? シグル様が? できるのかなぁ? 難しいよ!」

「ふふ、じゃあ教えてちょうだいね。店長さん」

「うん! 任せて! 教えてあげる!」

  タタタっと走っていき、こっちこっちと手を振っている。

  言い訳でもいい。やっぱり私はこの平和を守る。そしてもっと大きな平和にしてみせる。
 動機が不純だとしてもいい。なんとしても――

「何してるの? こっちこっち!」

「うん、分かったよ。今行くね」

  ん〜……っ

  と、日の光を一身に受け、体を反らして思いっきり背伸びする。体がプルプルと震えた。気持ちいいなぁ……

  よしっ。

  私も頑張ろう。





  店番を終り、踊りの準備も終らせた。
 手伝った店はとても繁盛してた。店長曰く、『シグル様効果ですなぁ!』とのこと。
 思い出すと口元が緩んだ。

  ステージに上がると気持ちのいい青空が私を待っていてくれた。
 そして皆は私を待っていたようで、すでに大きな人だかりができていた。

「シグル様〜!」

「きゃ〜! 綺麗!」

  皆口々に私の事を叫んでいる。嬉しいな。
 でも一つ……

「様付けは禁止ですよ」




  踊りを休憩している途中で大きな音を立てて花火が上がる。
 合図だ。とうとう来ましたか。
 後どれくらいでここに来るのかわかならいけど、さすがにすぐにここに来るなんて事は無いでしょう。
 でも、皆待ってるし踊っておこうかな。
 そしてまたステージに上がった。




  踊っていると二振りの剣を腰に差している、黒髪の男を見つけた。もしかしてあの人だろうか……
 でも風船も持ってないし、なにより一人だけ。違う人なのかな……

「え?」

  魔剣・グラム、魔剣・ノートゥング

  あの二刀流の男、なんで私の村から無くなった魔剣を持って……

  続いて私は二つ目のショックを受けることになった。

  緑色をした髪の女性がさっきの男に近づき、腕を組んだ。
 そして二人は何処かへ行ってしまった。


  ―――風船を持ったまま




  祭りは無事終り、偽装工作も大成功。顔も見ることが出来た。何ひとつ失敗はしていない。

  でも……

「なんだろ……この……胸につっかえる感じは――」

  背中の傷がなんだか疼く。私の体にある、『唯一』の傷。

  それに、何故あの人が魔剣を持っていたのか……
 つっかえる感じは多分魔剣のことだろうが、そんなことは倒してから奪い返せばいいだけのことか。




  私は何かすっきりとしないまま、とりあえず寝る事にした。

  明日からまた頑張ろう……

 

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