「ということは同盟を結んでくれる、ということですね?」

「うむ、我々もミドガルドには長年苦汁を舐めさせられてきたからな。この同盟、思ってもいない好機。断る理由は無い。
 それに盟主が高名なシグル・バルムンク殿ならばなおさらの事」

「ありがとうございます! では日時は『ミドガルズ国立記念日』です。お忘れにならぬよう……」

「承った。それでは『アースガルズ』の復興を願って……」

「神の意志を!」

  腰に下げている剣を抜き、高々とかざす。

「神の意志を!」

  向かい合っている白髪だらけの老人が、私の剣先に自分の剣先を近づけた。




「これでこの地域の同盟は完全に結べたわね。次はどの地域に向かおうかな……
 あ、カーグ、隠密から報告があったの?」

「はっ、隠密の情報では明日、自国アスヘルムに諜報員が来るとの事です。
 しかもその諜報員が、『無影の双剣』ジーク・フリードと『無限剣』キスティ・ホルンの、ミドガルズの『五神』の二人だと。
 顔を知るのには絶好の機会では?」

「あの二人が!? なら油断はならないですね。私達も一度アスヘルムに帰り、偽装の準備をしましょう」

「分かりました。では先に皆に伝えておきます。では」

  用件を伝え終わるとカーグは馬にまたがり、一礼をした後アスヘルムの方角へと走っていった。
 黒い髪が夕日に反射して綺麗だった。

  少し経ってから私も馬にまたがり彼が消えていった方へと走ってゆく。この風を切る音が好きだ。
 何も考えずに走っていれば感じられるこの感覚……気持ちがいい。
 でも今日は少しいつもと感覚が違った。

「諜報員があの二人とは……相手も感づいてきてるみたいだ……あと少し……ばれずにいきたいな――」

  オレンジ色に輝く日を背中に受けながら、馬に激を入れてアスヘルムへと急いだ。




「お帰りなさい! シグル様! どうですか!? 偽装の祭りの準備は完璧でしょう!」

 カーグが着いてまだ十分も経っていないはずなのに、偽装はすでに八割方完成していた。
隠密が私より先にアスヘルムの人達に伝えたのだろう。そして自分達ですでに用意していたということか。
それにしても祭りの準備――私が考えていた事と同じだ。
多くの作物が実を実らすこの時期、豊作を願う豊作祭なら何も怪しまれる事はない。
それに集会や他の国との密会も、祭りの会議や宣伝といえば片がつく。
こうやって言葉に出さなくても思ってることを分かってくれる仲間。これほど心強いものは無いと思う。

 私は馬から下りて笑いながら「ご苦労様です」と迎えに来てくれた男にねぎらいの言葉を送った。
「いえいえ、これ位の事しか出来ませんので」と頭を掻き、照れながら男は笑った。

 『これ位の事』

 『これ位の事』だけで私は十分嬉しい。私の前を、馬を引きながら歩いている男の背中に深々と礼をする。
男は気づいていないが、それでいい。少し差の開いた間隔を狭めるように駆け足で近寄った。
気づかれないように、足音を消して――



「では明日の朝六時に豊作祭を開催します! 皆さん楽しんでください!」

 星空の下、国民が一斉に歓喜を起こす。まだ少しその熱気が残る中、私は一足先に自宅へと戻った。

「豊作祭――懐かしいな……」

 久しぶりの休日、明日は楽しもう……

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