ひとこと

 古い話だが、僕は犬を2匹飼っていた。1匹はアニー、もう1匹はシロという名前だった。アニーは僕が小学生の時、転校してきたばかりの友人からもらった白と茶色の雑種のメス犬。アニーという名前は隣のクラスの女の子がつけてくれた。数年後、僕が中学生の時にアニーは5匹の子犬を産んでしまい、なんとか4匹の引き取り先を見つけたものの、真っ白なメス犬だけもらい手ができなかった。誰かが名前をつけてくれる訳でもなくいつの間にかついた名前がシロだった。犬の名前とは大概たいした理由もなく安易につけられてしまうものである。 大学に進学して実家を離れている時に、アニーが死んだという知らせが入った。特に苦しんだ訳でもなく、前日普通に散歩をした次の朝に死んでいたという事だった。
 シロが死んだのはアニーの数年後、僕が就職した直後だった。アニーとは大違いで、シロは僕の目の前で何日も苦しみながら死んだ。2匹の死を知らされたとき、飼い始めたきっかけが自分であるにも関わらず、最後までそばにいてあげられなかったことを後悔した。
 僕はこのアルバムのタイトルを決める会議に出席できなかった。“もなか注意報”の「もなか」とは、そのるびのベーシスト・T氏の飼い犬の名前である。このアルバムを最初に渡す人物は、T氏のベースの弟子であるM女史と決まっていたため、彼女のお気に入りの犬の名前が採用されたそうだ。この話を聞いたとき、タイトル会議に出席できなかったことを心底悔やんだ。もしも僕が会議に出席していたら、このアルバムのタイトルは”アニー注意報”あるいは”シロ注意報”となっていたかもしれない、いや、なっていたのだ。また、よく質問される我々のバンド名、「そのるび」は、ギタリスト・K氏の飼い犬「その」と飼い猫「でびる」が不規則に合体したものである。「でびる」はこのアルバムにも登場する。「その」の歌も、今回は不採用だったが2曲ある。 今はもういないアニーとシロの2匹の犬のために何ができるのだろうかと考えていたが、僕は2匹の犬のために曲を作る事を決めた。そして2匹の墓前で唄うのだ。今後もそのるびは、動物たちに好かれるバンドに成長していくであろう。
 楽曲についてもふれよう。そのるびでは各人が楽曲を持ち寄り、みんなで仕上げていく。合作となることもある。面白いことに聴く人によると、誰の製作か見当がつくそうだ。 更に面白いことに、人物のイメージと曲の世界は案外かけ離れているとのこと。「冬空」や「いつもの空いつもの風」は、繊細な男心を叙情的なメロディーが包んでいる。これを癒しの女性ボーカルが唄うことで映像感が増してくる。T氏曰く、この曲を”なよなよしている”と言う人には、名作『小さな恋のメロディー』を見ても泣く権利はない。「でびる」や「満月」は、煙に巻くような言葉や構成のため、”何が言いたいのかわからない”ともされるが、ここでは”曲全体として伝わってくる”と言ってほしい。「青い瞳の星座」 「君しか見えない」などは、言葉としてはストレートすぎる表現が、曲に乗ることしっかりと伝わっているはずだと信じたい。 このアルバムを通して感じたのは早くセカンドを聴きたい、という事だ。これは制作者としてではなく、自分をオーディエンスとして感じたことだ。僕が制作者側であるにも関わらず今から楽しみにしている。そう、そのセカンドアルバムに入っているであろう、アニーとシロの曲が今から待ち遠しい。

 最後になったが、今回アルバムの制作を支えてくれた多くの方々に感謝したい。

 平成20年4月 そのるび営業本部長/音楽評論家/ギタリスト 町田浩次
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