陽だまりとそよ風と
Chapter0-4: 世界の空気が違う、そんな風におかしなことを感じながら恭治は目を覚ます 何時もと変わらない和室と障子という風景、けれども、冷たい空気は雰囲気を変えていた そう、どうしてか・・・・・生暖かい、という感覚があるのだ 「・・・・・・・・・・気にすることは、ないか」 ゆっくりとたっぷり二十分ほど身体の調子を整えた恭治は起き上がる そして障子を開け放ち、太陽の光に目を瞑る 外は相変わらずの快晴で、雲ひとつない青空が広がっている そんな風景を見た後、恭治はため息を一つはいて制服に着替える そして、リビングに向かって歩いていくのであった キッチンのほうでは香ばしい匂いが漂い、焼き物系統であろうということが予想された テーブルにつくと、妹の悠が恭治に気づき、にこにこと笑ってこちらに歩いてくる その手にはトーストと目玉焼き、ベーコンという三種類が添えられていた 「はい朝食、今日は結構早めに出て来れたね、お兄ちゃん」 「・・・・・・・・・・まあ、な」 目の前に出された食材をゆっくりとした動作で食べる恭治 そんな恭治を見ながら、にこにこと楽しそうに笑っている悠 どうして笑っているのだろうかと、恭治は首をかしげた 「・・・・・悠、どうしてそんなに機嫌がいいんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・お兄ちゃん、それ、わざと言ってる?」 「・・・・・いや、割と本気なんだが」 「あのねお兄ちゃん、今日・・・・・何の日か、覚えてない?」 悠が呆れたように言い、カレンダーを指差す その指をたどるようにしてゆっくりとした動作で恭治は目線を動かす そして、その目線の先のカレンダーには、丸く印が描かれている・・・・・その日にちは 「・・・・・・・・・・二月、十四日・・・・・あぁ、なるほど」 「お兄ちゃん、私・・・・・妹として、ちょっと悲しいよ?」 がっくりとうな垂れつつも悠は後ろに隠し持っていた包みを恭治の前に出す それは綺麗にラッピングしてあり、市販品ではないということが明らかである いわゆる手作りチョコというわけだ 「・・・・・・・・・・ありがと」 「うん、ちゃんと"あまぁい"チョコレートだから、安心してね?」 「・・・・・・・・・・ああ」 男子生徒に上げるチョコレートと言えばビターチョコが主流である しかし恭治の場合はかなりの甘党、チョコレートは甘いものしか食べないのだ そして尚且つ、砂糖の量もかなりのものしか食べないのである 「でも大変だったよ、市販品の二倍以上の砂糖を使うことになるなんて」 「・・・・・・・・・・すまんな」 「ううん、お兄ちゃんが喜んでくれればいいから・・・・・うん、妹冥利に尽きるよっ」 あははーと笑う悠に対して、恭治は朝食を食べ終えると、包みを持った そして悠のほうを見て、何か言い辛そうにしていた 「あ、うん・・・・・開けちゃっていいよ?」 「そうか・・・・・なら・・・・・・・・・・おぉ」 中から出てきたのはハート型をしたいかにも甘そうなチョコレート むわっと甘ったるい香りがあたり一面に充満するほどの匂いを放っている チョコレートを上げた本人は少々苦笑い、恭治はかなり嬉しそうな顔をしていた 「・・・・・・・・・・美味い・・・・・やはりお菓子作りは悠の専門職だな」 「えへへ、唯一お兄ちゃんに勝てるのってチョコレートとかのお菓子だからねー」 笑った悠はチョコレートのカケラを口に含む、そして顔をしかめる どうやら、甘いもの好きの女子生徒でさえも顔をしかめるほどの甘さであるらしい 食べた後の総カロリーがかなり気になるところである 朝練のなくなった悠と共に恭治は玄関を出る 二月の中旬に一緒に外に出ることがなかったのか、悠はかなり嬉しそうな顔をしている そんな悠に苦笑いしつつ、鞄を持ち直してそのまま一緒に歩いていく 「そう言えば、今年はかなり覚悟しておいたほうがいいよ?」 「・・・・・・・・・・なんでだ?」 「だってお兄ちゃん、下級生からはかなり人気あるんだよ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・そうなのか、気づかなかった」 「あはは、昨日だって友達から付き合っている人いないのかとか聞かれたもん」 少々不機嫌そうにむくれた後、吹き出す悠 どうやら自分の兄が人気なのが少々おかしいように思えているようである けれども妹の悠も人気急上昇中なので、あまり変わらないようにも思える 「なあ悠」 「なぁに?」 「俺たちの周りを歩いている生徒に、紙袋を持っている奴が数人いるんだが・・・・・あれはなんだ?」 きょろきょろと辺りを見回してみると、女子生徒の中には紙袋を持っている人間がいる そしてしきりに中のものを確認したり、友人と交換し合ったりしているのだ それを見た悠は苦笑しつつも、兄のほうをみた 「あれはね、イベント用のチョコレートだよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・イベント用?」 「そっ、一個も貰えないと可哀想でしょ? だからお情けとして貰えなかった男子はアレから一個だけもらえるの」 救済処置なんだよーという悠に対して、恭治はかなり苦い表情をする どうしてかと言われると、かなり口を噤まなければいけないが、ここは一つ 恭治は自分もあの中に含まれてしまうのではないかと思ってしまっているのだ 「・・・・・・・・・・お兄ちゃん、お兄ちゃんはあの中に含まれないよ?」 「・・・・・どうして言い切れる?」 「だって、香織が言ってた・・・・・お兄ちゃんに一個義理だけどあげるよーって」 「・・・・・・・・・・そうか、安心だ」 「あ、あはは・・・・・」 かなり安心している恭治に対し、苦笑いの悠 そんな二人は、後方から何者かが走ってくる物音を聞く 二人して後ろを見ると、そこには瓜二つの銀髪姉妹が走ってくるのが分かった 「あ、おはよう春海ちゃん、冬海ちゃん」 「おはよー悠ちゃんっ・・・・・それに恭治先輩っ!」 「・・・・・・・・・・ああ、おはよう皆原姉妹」 「え、えとえと・・・・・恭治先輩、私たちのことは名前で呼んでください、じゃないと・・・・・分からないので」 もじもじとこちらを見上げながら言う冬海に対し、ニコニコ顔の春海 しょうがないな、と呟きながら、恭治は名前を呼んだ 「んじゃきちんと呼ばせてもらうよ、春海、冬海」 「はいっ」 「・・・・・はいっ」 「あぁ、やっぱりこっちが春海ちゃんだったんだ・・・・・ってかお兄ちゃん、本当によく分かるね」 どうやら勘で二人の名前を呼んでいたようで、悠が恭治に向かって尊敬の眼差しを向ける そんな悠の言葉を聞いて、春海はかなり驚いたような顔をしている どうやら恭治が二人を見分けているというのは知らない事実だったようだ 「そ、そう言えば・・・・・恭治先輩、私たちのこと見分けてますっ!?」 「・・・・・ああ・・・・・ってか冬海から聞かなかったのか?」 「あ・・・・・・・・・・ごめんお姉ちゃん、言ってなかった」 「あーうー・・・・・冬海ぃー」 少々じーっと冬海を見る春海、冬海は少々たじろいでいた どうやら姉には未だに勝てないようである 「ほ、ほらっ・・・・・早く行かないと遅刻しちゃいますよっ」 「・・・・・・・・・・逃げたな?」 「うん、逃げたね、冬海ちゃん」 「うっ・・・・・」 うっと唸ったまま硬直してしまう冬海 そんな冬海に、三人は抑えていた笑いをこらえきれなくなってしまうのであった・・・・・ あれから三人と別れて、恭治は自分の教室に入る 中に入ると、クラスメイトたちがかなり驚いたような顔をして恭治を見ていた どうやら恭治が学園にきたことにかなり驚いているようだった 「おっ、遠藤・・・・・今回は大丈夫なのか?」 「中口か・・・・・まあ、今回は体調がいいからな」 「ならいい、無理はするではないぞ、遠藤」 「加藤は無茶ばかりしていないで、大人しくしていろ」 「それはできんな中口よ、今日という日のためにモテない教師陣と策を練っていたのだからなっ!」 あっはっはと高らかに宣言する加藤に、中口はかなり呆れた視線を向ける けれどもクラスに居る男子生徒たちからは加藤は尊敬の念で見られていたりする 時折他のクラスからこちらを覗きに来る生徒も居るほど、加藤は今回人気であった 「ほーら席につけーっ! 今日は俺が仕切るが・・・・・まああとは学生に頼ることになる」 クラス担任ではない臨時の生徒課長がこちらのクラスを仕切っている そして今回の文化交流会、否、バレンタイン企画の概要を説明することになる 内容はいたって簡単、とりあえずチョコを貰うのだそうだ 今回は運任せ方式になっており、ひとり一人に一枚の紙が渡されている そしてその紙は点線で区切られており、切り取り線で小さい紙に別れるようになっている その切り取り線の中には理科準備室などと教室の名前が書かれているのである 一人ひとりなので番号が振られており、教室に入ったとき、その番号と同じ番号を持つ女子生徒からチョコがもらえる これならば誰でもチョコがもらえるという方式なのだ だが落とし穴もある、自分が向かった教室に番号を持った女子が居なければ骨折り損なのである 事前に聞きだしておき、その番号を持った生徒と交換してもらえばそれでもオッケー かなりせこいことだが、男子生徒にとってかなり死活問題なのだ そして最大の難関というのが回数、一枚の紙から三枚の切り取りしか出来ないのである チャンスは三回、三回過ぎたらあとは受付から義理チョコを貰わなければいけないということだ なので三回目までで女子生徒となんらか接触してもらえれば成功ということなのだ かなり、悪どい方式でもある 「紙は全員渡ったかぁー? んじゃ文化交流会スタートだっ! 男子生徒諸君、健闘を祈るっ!」 ガッツポーズで答える男子生徒たちに恭治は頭を抱える 隣に居た中口はぽんぽんと恭治の肩を叩いた 「・・・・・・・・・・なるほどなるほど・・・・・遠藤、体育館46って無いか?」 「ん? ああ、これか・・・・・ほれ、交換だ」 「おう、んじゃ俺の体育館129と交換だな」 「・・・・・鳳来か、まあ・・・・・妥当だな、行ってこい」 「んじゃなっ!」 先ほどからメールでなにやら確認していたようで、どうやら鳳来と打ち合わせていたようだ 鳳来は体育館46というのを持っていたらしく、丁度恭治の持っていたものと同じ番号だったということである なのでこれで中口は鳳来からチョコレートがもらえる、ということだ 「さて・・・・・面倒だ・・・・・・・・・・どこからいくか」 恭治が最初に選んだのは音楽室、どうせならここで時間をつぶそうという魂胆なのだ 音楽室に入ると、たくさんの男子生徒で溢れかえりそうになっていることが分かる それを見て恭治は失敗だったと、頭を抱えた 「そう言えば・・・・・悠が吹奏楽だったのすっかり忘れていたな」 そう、悠は学園の中でトップに近いほど人気のある女子生徒である その悠からのバレンタインチョコが欲しいがために男子生徒はこうやって集まっているのだ 尚且つ、吹奏楽部の女子生徒はかなり美人ぞろいだったということも、こうやって人数を増やす要因になっているのだ 「恭治先輩、なんか体調悪そうですよ?」 「・・・・・春日井か・・・・・まあ、黒の塊を見て、困惑していただけだ」 「なるほどぉ・・・・・あ、先輩っ、数字何番ですか?」 「ん? ・・・・・・・・・・えーと、七十八、だな」 「そうですか・・・・・では、ハイどうぞ」 恭治の目の前に出されたのは悠ほどではないが綺麗にラッピングされた市販ではないチョコレート ハートではなくて正方形なのがポイントだが、その持ち主はにこにこと笑っている ここで結論、数字が合致していると、チョコレートをもらえるのである 「・・・・・・・・・・あー・・・・・合ってたのか」 「はいっ、ほら・・・・・七十八です」 「・・・・・・・・・・ありがたく、貰っておくよ」 「はいーっ」 にこにこと笑っている春日井だが、周囲からの殺気は凄まじいものになっている それはそうだ、ほとんど撃沈しているのにここで成功している男子生徒が居る そして目の前でチョコを渡しているのは結構綺麗な女子生徒なのだ 「あー・・・・・・・・・・戦線離脱、しておく」 「ご苦労様ですっ・・・・・えーっと、一応グラウンドなんてどうです? 結構人いますけど、広いですし」 「・・・・・ありがとな」 「いえいえー」 離脱した春日井と分かれて、恭治は次なる目的地に向かう 一回目で手に入れたのだからもういいはずなのだが、春日井に言われてしまったのでなぜか移動 そう、結構流されやすい正確だったりする恭治だった 靴を履き替えていると、ぎゃーっと泣き叫んで駆け抜けていく男子生徒を見かける どうやら三回全て無理だったようで、半泣き状態で受付の風紀委員からチョコレートを貰っていた 「・・・・・・・・・・一回目で手に入れて、正解だったみたいだな」 手元にあるチョコレートをロッカーに入れて鍵を閉める そして恭治は靴をはいてグラウンドに出ることになる グラウンドでは死屍累々とまではいかないが、ぐったりとしている男子生徒が多々居る 「・・・・・・・・・・だが、ここでどうやって正解をだせと?」 「良くぞ聞いてくれた遠藤よっ!」 「・・・・・・・・・・加藤、前触れも無く登場するな、心臓に悪い」 「はっはっは、まあ気にするな」 そういって加藤は恭治にある方向を示す 恭治がゆっくりと視線を移すと、そこには・・・・・ 電光掲示板がでかでかと設置してあった 「・・・・・・・・・・・・・・・これって」 「そう、このグラウンドに居る女子生徒を瞬時に察知し、その番号を記載した監視用電光掲示板だ」 「・・・・・・・・・・よくできたな、これ」 「なに、特殊インクを使っているのでな、昇降口のセンサーに反応して数字が分かるようになっている」 「・・・・・・・・・・その技術、未来に生かせよ」 「はっはっは」 さらばだっ! と言って紙を持って駆け抜けていく加藤 どうやら加藤にも正解が合ったようで、その女子生徒を探すために駆け巡っているようだ 恭治はため息をはきつつ、自分の紙を見る・・・・・グラウンド、五百二十一 「・・・・・・・・・・・・・・・げ」 物語の主人公だからなのか、それとも久しぶりにこの時期に学園に来たからなのか 電光掲示板の番号と瓜二つ、そんなものを見つけてしまった恭治である そして・・・・・その人物は 「・・・・・・・・・・・・・・・皆原春海か」 今朝一緒に登校してきた皆原姉である あの活発そうだが料理ベタのように思える生徒が本当にバレンタインのチョコを持っているのだろうかと疑問 だが行くしかないのだろうと恭治は首を振り、春海を探し始める 「せんぱーいっ、恭治せんぱーいっ!」 「ん? 春海か・・・・・丁度いいところに来た」 「え? なにが丁度いいんですかっ?」 「・・・・・・・・・・ほれ、この番号」 「あーっ・・・・・私と同じ番号ですーっ・・・・・ってことは、先輩に!?」 「・・・・・・・・・・あ、ああ・・・・・そうなるが」 恭治が申し訳なさそうに言うが、春海はにこにこと笑顔になる そしてポケットをもぞもぞと動かし、はいっ、と恭治に手渡した 「お母さんと協力して作ったんですーっ! 力作ですよーっ!」 「そ、そうか・・・・・ありがとうな」 「はいっ! あっ・・・・・今、何回目ですか?」 「・・・・・・・・・・二回目だな、うん」 「冬海からは・・・・・貰ってません?」 「いや、一回目は春日井からだ・・・・・んで二回目が春海からだ」 「もてもてというか・・・・・運がいいですねー、先輩」 半分呆れ、半分少々嫉妬というような感情が混じっている春海 そんな春海だが、思い出したように手を叩いていた 「そうですそうですっ、これから中庭まで行ってくれませんか? そこに冬海が居るんです」 「・・・・・・・・・・そうか・・・・・まあ、時間も有り余っているし・・・・・行ってくる」 「はいっ、ご健闘を祈りますーっ!」 「・・・・・・・・・・ありがとな、祈んなくてもいいが」 苦笑いで春海と別れて、恭治は二個目のバレンタインチョコレートをロッカーに仕舞う そして、また靴を履きなおしてグランドまで移動 グラウンドに転がっている男の屍を越えて行き、中庭まで移動するのであった Chapter0-5に続く


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