相変わらず花びらを落としている桜の木々を眺めながら裕也は並木道を歩く 学生服に学生鞄・・・・・中には読書用の本しか入っていないが 空を見上げてもそこには桜の花びらばかりが漂っている そんな中、裕也はぼーっとしながら歩いていく 「あれ? 裕也君?」 「・・・・・・・・・・・・・・・芳乃?」 歩いている裕也に後ろから話しかけてきたのは芳乃さくら 以前に朝倉純一を追いかけていた少女である 「なんでこんな日に学校に行くの?」 「・・・・・・・・・・普通じゃないのか?」 「いや、だって・・・・・今日から卒業パーティの準備期間だから用がない人は休みだよ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「も、もしかして・・・・・忘れてた?」 「・・・・・・・・・・記憶にない」 要するに、裕也はHRでの言葉を聞いておらず、そのまま登校していたことになる だが裕也はある言葉を思い出していた 「・・・・・・・・・・あ」 「どしたの?」 「・・・・・・・・・・朝倉から言われていた気がする」 「お、お兄ちゃんからかぁ・・・・・」 苦笑いで返すさくらに裕也は溜息をはく どうやら何もすることがないので途方に暮れているようだった 「ねえねえ、裕也君ってこれから暇?」 「・・・・・・・・・・見れば分かるだろうに」 「そうだよね、暇だよね、うんうん・・・・・それじゃあ、れっつごー♪」 「・・・・・・・・・・おい」 さくらは裕也の腕を引いて駆け出していく しょうがないので裕也も一緒に走り、学園に到着する 学園では声楽部の歌声や体育館で吹奏楽部が楽器を鳴らす音が聞こえる 外では屋台の骨組みを確認する生徒や生徒会が走り回っていた 「・・・・・・・・・・で、何故ここに」 「ふっふっふーん、ちょーっとね」 「・・・・・・・・・・・・・・・で?」 「うぅ・・・・・いいもんいいもん・・・・・つれてきたよーっ」 冷ややかな裕也の視線を感じて、さくらは部屋のドアを開ける 中に入るとき、裕也は部屋についているプレートを眺めていた そしてそこにはこう書かれていた 生物準備室と・・・・・ 中に入ってまず気がつくことはコーヒーの匂いとタバコの臭いが充満していること そのミスマッチな香りに顔を顰(しか)めながら裕也は中に入る 「つれてきたって・・・・・朝倉じゃないのか」 「うん、お兄ちゃんは見つからなかったから裕也君を代わりにね」 「なんだ、さくらは影森と仲が良かったのか?」 「うーん、どうだろう?」 首をかしげて言うさくらに対して、生物準備室の長――白河暦――は苦笑い そして暦は裕也のほうを見てにやりと笑った 「さて影森、学園生活はどうだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・別に」 「面白味もないな・・・・・ふむ、よし・・・・・手伝え」 「・・・・・・・・・・・・・・・は?」 「いや、パソコンに打ち込む書類がたくさん残っててね、これがまた大変なんだ」 肩がこると言いながら暦は自分の肩を叩く だがその目線はずっと裕也を見ている 「・・・・・・・・・・・・・・・やれと?」 「その通り、影森はパソコンを触った事は?」 「・・・・・全くない」 「・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうか」 影森裕也、人生ここまで生きてきて一度もパソコンに触ったことのない人物 それに比例するかのように裕也の部屋にはゲームなどの近代物が一つもないのが現状だ 「あ、あはは・・・・・な、ならボクがタイピングの仕方を教えておくよ」 「ああ、頼んだぞ」 そう言って暦はタバコを消して部屋を出て行く 後に残されたさくらと裕也はパソコンに向き合い、さっそく始めるのであった・・・・・ 一時間は経っただろうか、静かな部屋にはカタカタとリズム良くキーボードを叩く音が聞こえる 時折書類とにらめっこしながらまた画面に向くといった動作以外は機械的だった そして講師だった芳乃さくらはうららかな日差しを浴びて机に突っ伏して眠っている そのさくらの体には男物の学生服が掛けられていた 「・・・・・・・・・・・・・・・これで、三十三部終了か」 呟いた裕也は右手においてあるだろう書類の山に手を伸ばす すると、手は空を切り、そのまま机に届いた 「・・・・・・・・・・なんだ、終わってたか」 高々と詰まれていた書類は既になく、左手に終了した書類が高々と積まれている そう、たった一時間で全ての書類を打ち終えてしまったのである 「・・・・・・・・・・暇になったな」 椅子に背を預けて伸びをする そしてデータを保存し、シャットダウン キーボードを収納して裕也はそのまま机に突っ伏す そして眠りにつくのであった・・・・・ 卒業証書を受け取り、壇上から降りていく たった数週間しか在籍していなかったのにもう卒業かと苦笑い 自分の椅子に座り、となりで何故か泣いている朝倉妹を見る ハンカチで涙を拭きながらぐずぐずと唸っていた 「うぅ・・・・・泣かないはずだったんですけど」 「・・・・・・・・・・しょうがないさ」 「うぅ・・・・・」 卒業式は滞りなく終わり、今はHR終了後である つまり放課後と言いたいところだが、風見学園はかなり特殊な場所である 卒業式の後、模擬店などの催し物が出るという卒業パーティー、通称卒パ これが伝統というのだからかなり面白い考えだなと裕也は思った 「あれ、裕也君?」 「・・・・・・・・・・芳乃か」 「うん・・・・・ってなんで音夢ちゃん泣いてるのっ!?」 「・・・・・涙もろいのだそうだ」 「あ、あはは・・・・・」 そうこうしていると、心配そうな顔をした純一が音夢の側に寄り添う 邪魔すると悪いので、裕也はそのまま廊下に移動していた そんな裕也を見ながら、さくらも一緒に移動、かなりシュールな光景だった 「それで・・・・・裕也君は何見てくの?」 「・・・・・・・・・・別に」 「えぇ!?」 「・・・・・ん?」 「えと、その、だから・・・・・そうだっ、一緒に回らない?」 「・・・・・・・・・・構わないが」 「うん、よし、それじゃあ決まりっ!」 さくらに腕をつかまれ、そのまま歩いていく裕也 そんな光景を見ながら、廊下を歩いていた生徒たちは苦笑いをしていた どうやらさくらと裕也は兄妹のように見えるようで、微笑ましいのだそうだ 卒パというものは一種の文化祭ではないのかと裕也は考える 手に持っているのはさくらが買った焼きソバ、フランクフルトetc 両手に持ちきれないのでポケットにも飲み物が入れられているのが現状だった 「ふんふんふーん♪」 「・・・・・ご機嫌だな」 「うん、だって雰囲気が楽しいじゃんっ」 あははと笑ってさくらは裕也の手に持っていた焼きそばを貰い、そのまま食べる 立ったままだとまずいので、裕也はそのままさくらを屋上まで誘導 そして心地よい風を受けながら、二人で舌鼓を打つのであった まあ、それほど美味しいものではなかったが・・・・・ しばらくして辺りはだんだんと茜色に染まっていく そんな風景を見ながら裕也は自分の太もも辺りにある感触に困惑する 最初は二人で会話していたのだが、いつの間にかさくらが熟睡 ただ寝るだけならよかったのだが・・・・・ 「・・・・・これだと動くにも動けないな」 「うにゃぁ〜・・・・・」 ぎゅっと学生服を握ってそのまま顔を擦り合わせて眠るさくら そんなさくらを見ながら裕也は上に羽織っていた学生服をさくらに掛ける そしてそのまま夕闇に染まっていく街並みを見続けているのであった・・・・・ 一時間ほど経っただろうか、屋上のドアを開ける音がする その方向を見ると、同じクラスであった杉並が姿を現した 「む? 影森か・・・・・で、寝ているのは芳乃嬢か」 「・・・・・・・・・・ああ」 「ふむ、まあこの状態ならば邪魔されないか・・・・・では取って置きの特等席で見させてやろう」 「・・・・・ああ」 屋上の中心に立ち、杉並は手に持っていたスイッチを天高く掲げる そしてカチリという音を立ててスイッチが押された ドーンッ!! 轟音と共に天高く舞い上がる光の玉 そして数秒後にドーンと音を立てて大輪を咲かせていた 「うわわっ!?」 「・・・・・っと」 轟音に驚いたのか、さくらは跳ね起きてすぐ側にいた裕也の腰に抱きつく そのままの体勢で裕也はさくらを見た 「あ、あれ? もう夜?」 「・・・・・疲れていたみたいだな、熟睡だった」 「・・・・・あ、うん・・・・・あ、ありがとう」 体に掛かっている男子制服を羽織ながらさくらは顔を少々赤くして言う 裕也はそんなことを気にせず、そのまま大輪を眺める 「うわぁ・・・・・綺麗だね」 「ああ」 「えへへ・・・・・」 あぐらをかいている裕也の前にさくらは座る 丁度裕也がさくらを抱きかかえる状態になった 「うん、暖かくて・・・・・綺麗で・・・・・幸せっ」 「・・・・・・・・・・そうか」 こうして二人は飽きることなく、杉並が打ち上げる花火を見る 一瞬で消えていく大輪は切なくて、それでも美しかった・・・・・ 春休み、それは学生にとって遊ぶことが出来る時期とも言える だが、影森裕也にはそんなことはほとんどないと言える それはなぜか? 答えは簡単、同年代の人間と遊んだ覚えがほぼゼロなのだ 「・・・・・・・・・・・・・・・暇、だ」 「ゆうやぁ、そういわないで誰かと遊んできなさいよ〜」 現在地は影森家、時刻はまだ八時と早い 毎日規則正しい生活を送っているので、休みの日でも同じ時刻に起きてしまう これぞ習慣の怖さというものである 「んー・・・・・それじゃあ一緒に出かける?」 「・・・・・・・・・・へ?」 「だってさぁ、商店街ってあまり見たことないんだよね〜」 先ほどから言っているのは母親である影森佐代子 本当は四十近いのだが、二十代に見えるというなんとも羨ましい人物でもある 「さぁて、れっつごー!」 「・・・・・・・・・・・・・・・りょーかい」 春休みの商店街というのは、いたって変わらず、そのままの雰囲気を醸し出している 学生は休みだが、仕事をしている一般の大人は休日ではないのだ 「あーっこれ可愛いよね〜」 「・・・・・・・・・・そうか?」 「うんうん、靖男さんに似合いそぉ〜」 「・・・・・・・・・・父さんかよ」 ファンシーショップあたりを散策している影森親子 親子なのだが、そう見えないのが羨ましい そんな二人を見ている視線も、生暖かい視線だった 「・・・・・・・・・・あれ? あの子、どうしたのかな」 「・・・・・・・・・・ん?」 佐代子の言葉に視線を移す裕也、するとその目が細くなった 「かわいいなぁ・・・・・お持ち帰りしたい子だよね」 「・・・・・・・・・・おいおい」 がっくりとうな垂れる裕也はそのまま目線の先に居る人物を見る そこにいたのは金髪のツインテールをなびかせている芳乃さくらであった 「ねえねえ、ちょーっといいかなぁ?」 「・・・・・え?」 いつの間にか佐代子はさくらの前まで歩き、ナンパしていた それをあきれた風に見ながら、裕也はそちらに歩いていく 「えっへっへ、お嬢ちゃんかぁいいねぇ」 「え? え?」 「・・・・・・・・・・暴走するなよ、母さん」 「え、えーっ!?」 混乱し続けているさくらに対し、裕也は少々苦笑い そんな裕也を見て、さくらは少々顔を赤くしていた 「・・・・・・・・・・すまんな、うちの母さんが」 「う、ううん・・・・・だ、大丈夫」 「んもう、もうちょっとだったのにぃ」 残念そうに言う母に二人は顔を見合わせる そして母は大胆なことを口にするのであった・・・・・ 「よぅしっ・・・・・さくらちゃんだったわね?」 「う、うん・・・・・そうだけど」 「お持ち帰り決定っ! 連れ去るわよーっ!!」 「・・・・・・・・・・」 これには流石の裕也も固まった 否、周囲に居る一般人たちも、固まったであろう 「えっへっへ・・・・・行くわよぉ♪」 「え、ちょっ・・・・・・・・・・ゆ、裕也君っ!」 「・・・・・・・・・・すまん、無理だ」 「そんなぁーっ!?」 訳が分からないまま佐代子に連れ去られるさくら そんなさくらに哀れみの目線を送る裕也 「ちょ、裕也君っ・・・・・た、助けてよっ」 「いや、無理だって」 「そ、そんなぁっ」 「あっはっはー可愛いなぁ」 ぎゅーっとさくらを抱きしめる佐代子、さくらふぁんなら抱きしめたいだろう そんな佐代子とさくらを見ながら溜息を吐く裕也 「・・・・・母さん、そろそろ家だから離してやったらどうだ?」 「いやー、可愛いもん」 「可愛いもんって・・・・・子供じゃないんだから」 「子供じゃないもん、人妻だもん」 「・・・・・母さん、そのネタどこで仕入れてきた」 「靖男さん」 平然と答える佐代子に対し、裕也はがっくりとうな垂れる 『子供じゃないもん、人妻だもん』←これを知りたい人は『はぴねす!』をやるように ※拾捌禁なのでそれ以下の人は買っちゃだめです それはさておき、ぶーたれている佐代子はそのままさくらを引っ張っていく もう諦めたのか、さくらはそのままされるがままだった 「芳乃・・・・・強く生きろよ」 「ちょっ、これから死地に赴く友人に対する敬礼っぽい言葉言わないでよっ!?」 「・・・・・長いな」 「うん、ボクも噛みそうになった・・・・・って違うよっ」 一人ノリツッコミが上手な芳乃さくら、考えられないだろう だが、実際にここに居たのである 「ほらほらとうちゃーくっ、えっへっへー」 「た、食べられるよ・・・・・ボク食べられちゃうよ!?」 「・・・・・大丈夫だ芳乃」 「・・・・・裕也君」 「骨は拾ってやる」 一瞬の沈黙、そして佐代子は目を光らせる そう、さくらを家の中に引きずり込むのだ 「ゆ、裕也君の薄情者ーっ!!」 「・・・・すまん芳乃、母さんは止められないんだ」 敬礼をする裕也、かなり様になっているのは気のせいであろう はてさて、引きずり込まれた芳乃さくらは一体どうなってしまうのであろうか・・・・・