行潦の序


「雨が降った。」

 雨上がりの土の匂いは、遠く記憶の彼方に。
 思い出そうとしても、鼻孔が憶えているのは、アスファルトの不快なそれだった。
 漫然たる日常に飲み込まれて、たくさんのものを失ってしまう。
 何を失ったかさえ思い出せない。
 不幸だろうか、当たり前のことだろうか、考えても仕方が無いと思うだろうか。
 ぬかるんだ道を、長靴で歩く。
 水たまりに足を乱暴に突っ込んで、跳ね上がる泥水に喜ぶ。
 濡れても平気だった。
 静かに青空を移す、小さな水たまりは、綺麗だった。

※     ※     ※     ※     ※

 彼等は何処へ行こうとしているのだろうか?
 そんな疑問を投げかけても、簡単に答えを見つけることは出来ない。
 だからこそ、僕らは迷うのだろうけども…。
 雨は降る。
 人の住む場所に、人の住まない場所に。
 地表の全てに降り注ぐ。
 やがてぬかるむ地表の至る所に、僕らは足跡を残していく。
 故意にか無意識にかは、人それぞれだろうけれど。
 足跡は後々まで残っていくだろうか。
 もし、残ったとすれば、誰かが気付いてくれるかもしれない。
 気付いた人は、僕らの足跡を辿るだろうか。
 辿ってくれればいいと思うこともあるし、放っておいて欲しいという気持ちもある。
 そんな矛盾は人間お得意のものだ。
 矛盾を矛盾のままにしておくのは、堕落だと思うかい。
 僕はひとつの選択、ひとつの勇気だと思うこともあるんだ。




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