ねえ ナナ あたしたちの出会いを覚えてる?
あたしは運命とか かなり信じちゃうタチだから
これはやっぱり運命だと思う 笑ってもいいよ

ねえ ナナ あの川べりで肩を並べて 水面を彩る光を見たよね
あの頃 口ずさんでいたメロディーを もう一度 聞かせてよ



その時 何故か あたしは少し 泣きそうになったんだ
それがどうしてかは 上手く言えないけど
差し出されたナナの手は 意外な程 温かくて 胸まで熱くなったんだよ

だけど ナナと暮らし始める事に 不思議と不安はなかったんだよ
それがどうしてかは やっぱり上手く言えないけど

ヴィヴィアン ピストルズ セブンスター ミルクを入れたコーヒーとイチゴの乗ったケーキ
そして蓮の花 ナナの好きな物は ずっと変わらなくて
移り気なあたしには それが とても かっこいい事のように思えたんだ

ナナは気ままな ノラ猫みたいで誇り高く 自由だけれど 癒えない傷を負ってたよね
能天気なあたしは それさえ かっこいい事のように思ってた
それが どれ程の痛みなのかも知らずに


その夜の事は 本当に今でも忘れられない
まだ歌詞の付いていなかった あの曲に
ナナがデタラメの英語を乗せて歌うから
まるで不思議な呪文でも掛けられてゆくように
あたしは その声の虜になったんだよ


食卓がステージに携帯がマイクに 三日月がスポットライトになる
あんな魔法を使えるのは この世にナナしかいない
あたしは今でも そう信じてる


少しも大人になんかなれないのに
もう甘えてばかりは いられない現実の中で
ナナは とびきり甘い夢を見せてくれた
とても幸福な初恋みたいだったよ



ナナは今でも自分の故郷が どこにもないと思ってる?
あの窓辺の食卓も椅子も あの頃のまま あの場所にあるよ


もしもナナが男だったら 一世一代の恋が出来るのに
あの頃あたしは よくそう思ってた
だけど そしたらこんな 楽しい思い出ばかりには きっと ならなかったよね
恋に痛みは つきものだから 溺れてゆく程 苦しいものだから


ナナの瞳は濁りがなくて ろくに星も見えない
こんな街より 真っ白い雪景色が似合う気がした


あの夜 もしもナナが一緒にいてくれなかったら
あたしは身投げして多摩川の底に沈んでたと思う 本気で そう思う


両足で踏んばって 立っているのが精一杯で 独り置いてきぼりになる
ナナはそんな歌ばかり歌ってた
涙が出そうだ それは あたしの気持ちだよ 遠くに行かないでナナ



その時 てっきりナナは怒り出すかと思ったのに 叱られた子供のような顔をした
思い返す度 胸が痛む あの頃 あたしが もう少し大人で
ナナの弱さに気づいてあげていたら 今とは違う未来があったの?


ライブの朝
ナナは まるでいつもと変わらない様子で あの窓辺に座ってたよね
でも いつもとは違う匂いがした シンちゃんから没収した煙草
苦手なはずのBlack Stoneの香り
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