だけどステージに現れた その男に あたしは釘付けになってしまった
あの夜生まれた感情を どんな名前で呼べばいいのか
それは恋とかときめきだとか 甘い響きは似つかわしくない
嫉妬が入り混じった羨望と 焦燥感 そして欲情
今でも時々 不安になる レンと暮らすこの日常が
全て夢の中の出来事に思えたりする
それまで卑屈に生きて来たあたしに レンは眩し過ぎたから
どんなにあがいても未だに手が届かない気がするよ

あたしとレンが結ばれたのは 出会って ちょうど一年目の クリスマスの夜だった
ライブの興奮が冷めなくて 打ち上げの帰り道 雪の積もった防波堤の上で ふざけ合ってはしゃいだ


あまりに突然で 目を閉じるのも忘れた


死んでもいいと本気で思った あたしはレンが欲しかったから
欲しくて 欲しくて たまらなかったから あの日からずっと


すぐに二人で暮らし始めた レンはあたしに 歌う喜びをくれた
ギターを教えてくれた 生きる希望を与えてくれた




レンと暮らして一年と三か月 まだ雪が残る春の始まりに あたし達は終わった
さよならは言わなかった
だけど 離れて暮らす事が 二人にとって致命的なのは分かっていた
電話や手紙なんて価値がない 抱き合えなければ意味がない
レンが言葉に出来ない寂しさを 夜毎 あたしの中で吐き出しているのを 感じていたから
誰よりも深く感じていたのに
今でも時々後悔する レンのいないこの日常が 全て夢の中の出来事に思えたりする
特に こんな雪の降りしきる夜は こんな寒い夜は 誰か あの男を温めてあげてね

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