〜事件は闇に罪は紅に〜



	
「逃げたーー!!」 「ホシが逃げたぞーーー!」 ばらばらばら、という心理的にイヤぁな音を立てて、 それぞれ揃いの――少し暑そうな服の 連中が追って来る。 手には魔導師が使う杖や剣、弓などを持っている。 捕まるどころか、まるで殺されそうな勢いだ。 殺――― これ以上無いという位イヤな考えを予想してしまい 半ば無意識にぶるる、と体を振るわせた。 イヤだ。イヤすぎる。 まだ若いのに。 まだ修行中で、この道を極めてもいないし、 しばらくあっていない家族の暮らしも気にかかる。 ただでさえ質素な暮らしを強いられているのに ここで収入源の自分が野垂れ死になどしたら どうなってしまうのだろうか? そういえば昨晩から 使い魔に餌をやれていない。 今頃お腹を空かせていないだろうか? 生命の危機にさらされ、 さらに全力疾走しているので もはや混乱しまくりながら少女は考える ああ、それになにより まだ恋もしていない 「あんまりです・・・」 もう体力もつき果てたと、 己の身体が斜めに傾ぐのを自覚しながら少女は呟いた。 それは自身を この様な目に遭わせた神への遺言の様だった。 ぽふっ 朦朧とする意識の中で、 けして地面ではありえない感触に包まれた。 「リロル・・・・だから、」 すぐ近くから男の ――恐らく青年ほどの―― 声がした。 ひどく聞き覚えのある声だった。 その声を聞きながら、 ようやく自分が落ち着いて行くのを 少女、リロルは感じ取っていた。 「こういう時に逃げる事しかしないから、 おまえはまだまだ未熟だというのだよ」 ――それと同時に怒りが込み上げて来るのも。 「自分が真っ先に逃げておいてそれを言いますか!」  
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