〜裏切り〜



	
裏切り

其の者は、 親に、神に、 そして、最愛の者にすら裏切られる。 =彼女は、まず親に裏切られた= 『娘よ此の男と契るがよい』 そういって父が紹介した人物は、 隣国の第三王位継承者であった。 彼女は耳を疑った。 父親は彼女にとって最も信頼のおける人であった。 その父が、隣国への貢物に自分を差し出すなど、 信じられなかった。 『そんな!あんまりです!』 そう叫ぶと彼女は、 謁見の間から逃げるように飛び出していた。 =彼女は次に神に裏切られた= ―その夜― 王は悩んだ。 なぜ、娘が拒んだのか解からなかったから。 隣国の第三王位継承者と言えば、 本国でも美男子として有名であり、 何より、王位継承権の低さから、 彼や隣国の王も、 彼が本国へくる事を了承している。 彼女が本国を離れ不慣れな生活を送ることは無いのだ。 だから王は悩んだ。 どうすれば、 彼女は喜んで隣国の王子と契ってくれるだろうと。 だから王は縋ったのだ、 人の心を自在に操る言う神に。 ―王女の部屋― 彼女の部屋に、 見知らぬ者がするりと現れこう言った。 『娘よ、彼の者に心を委ねなさい』 『彼の者は、貴女を裏切りません』 陶酔した瞳を向け、頷いた。 そして、来訪者に告げた。 『しかし、王は私を裏切った』 『裏切られる事は辛いですか』 『この身を引き裂かれるようです』 『なれば、人を引き裂く術を与えましょう』 『王に使えば貴女の心は癒されるでしょう』 彼女は、人を疑うことを知らない。 そして、彼女の心は癒しを求めていた。 だから、突然の来訪者の言葉を信じてしまった。 ―翌朝― 彼女は王に従い隣国の王子と誓いを交わし 夫婦となった。 人を弄ぶ神は、 『王よ、代価を頂くぞ』 人知れず囁いた。 王は、娘に呼ばれ広間を離れた。 『どうしたのだ、式が不満か』 王は知らなかった。 娘の真意を。 『私は、信じていたのに』 娘の言ったことの意味が王には解からなかった。 そして、理解する間もなく、 『切り刻め』 王は罰を受けた。 最愛の娘から。 ―正午― 彼女は、王子を連れて城から逃げた。 そして、彼女に懐いていた、 まだ十にも満たない弟を騙して連れ去った。 しかし、弟は気付いていない、 自分を優しく包み込んでくれた姉はもう居ないのだと。 隣国へ逃れるために彼女は船を使った。 王子が船に乗り込み船室へ入り、 彼女が船に乗り込もうとした時、 王妃が現れ叫んだ。 『王を殺した罪人(つみびと)よ、どこへ行く!貴女はまだ償っていない!』 『いいえ、償ったなうべきは王で、王は償いました』 『王に落ち度は無かった!』 『王は私を裏切った』 『話になりません、あの者を捕らえなさい!』 王妃がそう叫んだとき、 彼女は、右手にしがみついていた弟を持ち上げ、 こう告げた。 『拾い集めなさい』 その瞬間、弟の体は切り刻まれ、 海へと落ちていった。 王妃があわてて、 息子を踏みかけた兵士を止めた隙に、 彼女は王子と共に隣国へと旅立った。 =彼女は最愛の人の愛を手に入れる= ―七日後― 隣国へ辿り着いた彼女達は、謁見の間に通された。 彼女は、隣国の王に告げる。 王が倒れ、国を逃れたことを、 しかし、隣国の王は知らない、 王を殺した者を、 王を殺した業を、 王を殺した訳を、 だから、間違った。 『王女よ報告感謝する』 『しかし、わしは御主らなどもう要らんのだ』 『すまんな、許せ』 『衛兵!この者達を殺せ!』 彼女は迷わない。 最愛の人の父親でも、 最愛の人の国の者でも、 『切り刻め』 そして、彼女はその場に居た自分と王子以外の者総てを、 切り刻んだ。 『大丈夫ですか』 彼女は王子に優しく問いかける。 王子は、自分を殺そうとした親や国の者に愛想を尽かし、 自分の親や国の者を殺した彼女に微笑んでこう言った、 『ありがとう、助かったよ』 王子に微笑みかけられて、 彼女は舞い上がった。 その微笑は政略結婚故に、 王子に彼女への愛が無かったため、 初めて彼女に向けられたものだった。 ここへ来て初めて彼女を愛しいと王子は思った。 王子は自分のために血に汚れながら、 心配そうにこちらを見つめる王女を見、 美しいと感じた。 そして、彼女らは又しても逃げた。 遠く異国の地にて幸せを求めて。 =彼女は終に最愛の人に裏切られる= ―三年後― 王族としての身分を捨て、 平民として暮らす二人の姿が見える。 遠く異国の地において、 彼女はようやく幸せな日々を過ごすことが出来たのだ。 しかし、人を弄ぶ神は面白くなかった。 そして、その国の王女を騙し、 王子を求めさせた。 ―四日後― 彼は王の元へと呼ばれた。 王は彼に告げる。 『元の暮らしに未練は無いか』 彼は頷いた。 『ならば、あの女と別れワシの娘と契れ』 彼は、迷った。 確かに、以前の暮らしに未練はある。 しかし、今の暮らしも決して悪い物でもない。 むしろ、良い物かもしれなかった。 それは、彼女が居るからだった。 そして、渋る彼に王は言った。 『ワシの娘は、若く美しいが』 『あの女は、ワシの娘より若くないし、美しくもない』 『ならば、迷うこともあるまい』 追い討ちをかけるように、 王は、娘を呼んで見せた。 王の言う通り、 娘は、若く、美しかった。 そして、彼は決断を迫られた。 ―翌朝― なかなか帰らない彼を心配に思い、 町に出ると、 彼とこの国の王女が結婚すると聞き、 彼女は裏切られたのだと悟る。 その足で式場へと向かい、 扉を開け放ち、 怒りに身を震わせながら叫んだ。 『切り裂け!』 その叫びは、泣き叫んだようにも聞こえたが、 しかし、目に映る景色は凄惨だった。 彼女の愛した王子を残して、花嫁も、国王も、神父も、 誰一人として残らない。 だから、唯一残された彼にそれが解かったかどうかは、 わからない。 唖然とする彼を尻目に彼女は去った。 ―十年後― 西国に逃れた彼女は、 孤児院で子供達の面倒を見ていた。 しかし、孤児院の扉を破り、 彼女の平穏を打ち破る者が現れた。 それは、彼女によって排除されたが、 彼女の力に脅えた子供達の通報によって 彼女は捕らえられた。 逃げることも出来たはずだったが、 彼女はもう生きていることが辛くて辛くて仕方が無かったし、 子供たちを怖がらせた、脅えさせた力を、 どうしても使う気にはなれなかった。 そして、忌まわしき神の手によって狂わされた、 彼女の生涯は、 魔女として、 その身を貫かれ、 業火にその身をさらされる事で、 ようやく終わりを告げる。 業火にその身を焼かれ、 彼女が息絶えたとき、 天使が舞い降りた。 天使は彼女に何か呟くと、 微笑み、 彼女を連れて天空の彼方に消え去った。
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